歌舞伎いろは

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京都四條南座「吉例顔見世興行」『碁盤太平記』 知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村扇雀

『忠臣蔵』の先行作品を初代のために脚色

 ――『碁盤太平記』は『仮名手本忠臣蔵』に先行する「忠臣蔵物」です。近松門左衛門の原作に渡辺霞亭が脚色を加えています。

 近松の原作では大星由良之助、力弥など名前も『仮名手本忠臣蔵』と一緒ですが、霞亭脚色の『碁盤太平記』では内蔵助、主税に改めています。あと、原作では由良之助の敵討ち出立を前に自害する母と妻を、生かしたままにしています。

 また、内蔵助は碁盤に並べた石の配置で、岡平から吉良邸の間取りを確認します。『忠臣蔵』の「討入」の泉水の立廻りなどに登場する風景が、観客の方たちの頭の中にもあると思います。『碁盤太平記』のせりふにも、「玄関はここ」などとあります。劇場の2、3階の客席からは、盤面もご覧になれると思いますので、きちっと並べるように心がけています。

 ――題名にもあるように、碁盤が大きな役割を果たしますね。

 4月の歌舞伎座公演の前に、小道具さんに碁盤を5つぐらい用意してもらいました。石をポンと置いたときに音が聞こえないといけません。高さがなくて見た目が悪い台もありましたが、立派な台でも厚みがあると、いい音が出ないんです。いろいろ試してベストな台を選びました。

 最初のうちは石を置くのも慣れていませんでしたので、ポンとやったら石が飛んでしまったり、主税を演じる壱太郎が並べるのに手間取ったりもしました。

京都四條南座「當る申歳 吉例顔見世興行」

平成27年11月30日(月)~12月26日(土)

玩辞楼十二曲の内 『碁盤太平記』ごばんたいへいき

大石内蔵助 中村 扇 雀
下僕岡平実は高村逸平太 片岡 愛之助
大石主税 中村 壱太郎
医者玄伯 中村 寿治郎
大石妻りく 片岡 孝太郎
大石母千寿 中村 東 蔵

初代の写真を見ながら化粧をしていた4月

 ――夜の部で上演される『土屋主税』(つちやちから)も霞亭の作品ですね。

 霞亭は初代のために作品を多く提供した、いわば座付作者です。初代のブレーンには「玩辞楼十二曲」の『恋の湖』や『あかね染』を書いた大森痴雪もいました。そういう存在が身近にいたことは大きいですよ。『双蝶々曲輪日記』の「引窓」も、初代が復活して十二曲に入っています。初代は新しい作品に取り組んだり、つくったりする欲望が強かったんでしょう。

 三代目中村宗十郎、初代實川延若という二人の偉大な先輩がいる中で、自分の世界を確立したのが初代鴈治郎。何でも取り入れる人だったのだろうと思います。そういう点で勘三郎のにいさんと似ていますよね。おにいさんも野田秀樹さん、串田和美さん、宮藤官九郎さん、渡辺えりさん等と新作をつくりました。そういう試みが、もっと当たり前のようにあっていいと私は思うんですよ。

 ――扇雀さんにとって曽祖父様にあたる初世中村鴈治郎とは、どういう存在でしょうか。

 この写真は(と、スマホの画面を見せ)、ちょうど『碁盤太平記』の内蔵助が駕籠から出てきたところです。めちゃくちゃ格好いいでしょう。4月は化粧前(鏡台)にこの写真を置いて化粧(かお)をしていました。

 南座の2階には、初代のブロンズ像が飾ってあります。南座に行くと、まずそこに行って像を触りますが、もともとは祖父(二世鴈治郎)の家にあったものなんです。だから、南座で芝居をしていると、2階から初代に見られているような気がするんですよ。ましてや、今度演じるのは「玩辞楼十二曲」。より強く初代の視線を感じると思います。

 上川隆也さんと『隠蔽捜査』(今野敏原作)という推理劇に出演したときは(平成23年11月)、着物ではなく警察官の役で背広で南座の舞台に立ったので、曽祖父は笑っているだろうなと思いました。でもきっと「こういうのも好きだよ」と言ってくれるんではないかと想像しました。なにせ明治時代にシェークスピアの「ハムレット」(『はむれっと』明治41年3月中座。役名は葉村年麿)を演じたような人ですからね。

ようこそ歌舞伎へ

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