歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「三月大歌舞伎」『鎌倉三代記』『祇園祭礼信仰記』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 五代目 中村雀右衛門

父にならった演じ方で初役に挑む

 ――五代目雀右衛門襲名おめでとうございます。3月の歌舞伎座の襲名披露興行では、昼の部で『鎌倉三代記』の時姫を初役で勤められます。「三姫」の一つで、お父様も得意とされました。

 いちおう自分でマスターしてから、中村魁春のお兄様にご指導を賜ります。父が成駒屋のおじさん(六世中村歌右衛門)にご指導を受けたときに、魁春のお兄様も同席され、お兄様がなさったときには、父の舞台も参考にされたとうかがっております。父は歌右衛門のおじさんを大変に尊敬しておりましたので、私も成駒屋さんの型で勤めます。

 いつかはさせていただきたい役で、それを歌舞伎座の襲名でできるのは幸せですし、昼夜とも、先輩方にご出演いただけるのは、本当にありがたいことです。

 ――北条時政の息女でありながら、敵方の三浦之助を慕って留守宅にまで来ている行動的なお姫様です。

 相当、押掛け女房ですよね。時政には三浦之助と縁を切り、討ってこいと命じられ、三浦之助には時政を討てと言われます。父と恋人との間で葛藤がある。そういったところが非常に「お芝居」なんでしょうね。

『鎌倉三代記』絹川村閑居の場(かまくらさんだいき)(きぬがわむらかんきょのば)

このページのコンテンツには、Adobe Flash Player の最新バージョンが必要です。

Adobe Flash Player を取得

撮影:篠山紀信

 北条時政の娘ながら、敵方の源頼家の家臣、三浦之助の押掛け女房となっている時姫は、絹川村で健気に姑の長門の世話をしています。そこへ、手負いの三浦之助が暇乞いに訪れます。気丈な長門は対面を拒みますが、時姫は夫婦の固めをと取りすがります。時姫は三浦之助が死ぬ覚悟と知ってかき口説くのですが、三浦之助が敵方の娘に心を許すことはありませんでした。

 夜が更け、時姫がひとり思い悩むところへ、時政の使いという安達藤三郎が現れました。しつこく言い寄る藤三郎に思わず斬りかかる時姫。藤三郎は井戸へ逃げ込み、時姫が悲しみのあまり自害を決心したところに、三浦之助が現れました。三浦之助は時姫に、疑いは晴れた、自分が死んだあとで夫の敵として父時政を討ち、そこで自害すれば親不孝にもならないと説きます。心を決めて父を討つと誓った時姫、三浦之助はおおいに喜びました。その様子を陰で聞いていた者が、北条方へ注進に駆け出すのを、井戸の中から一本の槍が突き刺しました。現れたのは藤三郎になりすましていた頼家の重臣、佐々木高綱。驚く時姫を前に、高綱が事の真相を明かします…。

大阪松竹座「壽初春大歌舞伎」

平成28年3月3日(木)~27日(日)

『鎌倉三代記』絹川村閑居の場

時姫 芝雀改め中村  雀右衛門
佐々木高綱 中村  吉右衛門
おくる 中村  東 蔵
富田六郎 中村  又五郎
母長門 片岡  秀太郎
三浦之助義村 尾上  菊五郎

 ――手負いで戦場から戻り、気を失った三浦之助を介抱する場面があります。

 口移しにお薬の独参湯を飲ませます。歌舞伎のお姫様はだいたいそうですが、大胆なところがあります。父はあからさまには口移しが見えないようにして飲ませておりましたが、そこは魁春のお兄様に、ちょっとおうかがいしてと思っております。

 そして、戦場に戻ろうとする三浦之助を引き止めます。三浦之助が討死する気なのが時姫にはわかっています。最後には、お母さんの長門がいつ死んでしまうかわからないから、一夜だけでも待ってくれと頼みます。是が非でも引き止めるという情熱的な場面です。

どんなことをしていても姫であり続ける

 ――後半は、時政の迎えと名のる藤三郎が、連れ帰ったら女房にもらう約束をしていると言い寄ってきたり、自害しようとしたところを三浦之助に止められ、時政を討てと頼まれたり、さまざまな出来事が起きます。

 時姫は「北条時政討ってみしょう」と口にします。そこは、もう思い切っています。三浦之助に言うと同時に、自分にも言い聞かせています。覚悟を決めたということです。時政を討てば、自分もそのままではいられないというのもわかっているわけです。

 ――どんなところを大切に演じられますか。

 三浦之助への思いです。父も情を大事にしていました。それと、たとえいろんなことをしていても、お姫様であり続けなければいけないということでしょう。三浦之助を引き止めるところも、娘ではなくお姫様でいなければなりません。

 魁春のお兄様におうかがいするのが第一ですが、ありがたいことに父の演技が映像で残っておりますので、何回も何回も見て勉強いたします。父もなぞることが大事だと言っておりました。同じようにできないまでも、風情ですとか情熱的なところを、真似たいと思います。

ようこそ歌舞伎へ

バックナンバー