歌舞伎いろは

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歌舞伎座「三月大歌舞伎」『鎌倉三代記』『祇園祭礼信仰記』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 五代目 中村雀右衛門

美しさに満ちあふれた『金閣寺』

 ――夜の部では『祇園祭礼信仰記』「金閣寺」の雪姫をなさいます。こちらは2回目です。やはり「三姫」の一つで、お父様も得意にされていました。

 雪姫は絵師雪村の娘で、三姫の中では庶民に一番近い存在です。狩野之介直信という夫もいます。夫のため、ご主人の慶寿院のため、そして父の雪村の敵討ちと、いろんな思いを持っています。

 雪姫は、言い寄る大膳に「雨を帯びたる海棠桃李」と表現されるような魅力があり、桜の木に結わかれている。縛られるということ自体が非日常的ですし、情景も置かれている立場も色っぽい。しかも場所は金閣寺という日本建築の中でも指折りの豪華な建物です。そこに桜の花びらが散りかかる。桜は日本人にとっては大切な花の一つで、普段でも、風に吹かれて花びらが散ると綺麗だなと思いますよね。そんな具合に、どこをとっても美しさに満ちたお芝居です。

『祇園祭礼信仰記』金閣寺(ぎおんさいれいしんこうき)(きんかくじ)

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撮影:篠山紀信

 主君の足利将軍を滅ぼし、いよいよ天下を狙おうという松永大膳。立てこもる金閣寺には将軍の生母と、思いを寄せる雪姫とその夫の狩野直信を幽閉しています。絵師の娘雪姫に、天井絵を描くか我が物になるかと迫る大膳。そこに、家臣が此下東吉を連れてきました。かねてより小田春永の忠臣、東吉を軍師に迎えたかった大膳が、東吉に碁の相手をさせていると、雪姫は夫の命を救うために大膳に従うと言い出し、大膳は大喜び。ところが、碁に負けてたちまち不機嫌になり、碁笥(ごけ)を井戸へ投げ入れ、今度は東吉に無理難題を吹っかけます。東吉は見事に答え、大膳は家臣に迎え入れる準備をさせます。

 墨絵の龍を描くための手本を所望する雪姫に、大膳が刀を抜いて滝に映し出すと、龍の形が現れました。その刀を奪い取り、これこそ家の秘伝、父が討たれたときに紛失していた倶利伽羅丸の奇瑞、と親の敵の大膳に斬りかかる雪姫。しかし、すぐさま捕まり、桜の大木につながれてしまいます。直信も刑場に連れて行かれ、嘆く雪姫でしたが、ふと祖父雪舟の故事を思い出し、桜の花びらを寄せ集めて鼠を描き出しました。すると、どこからともなく現れた鼠が縄を食い切り、雪姫は自由の身に。そこへ東吉が現れて自分の正体を明かすと、すべてを任せるように語り、雪姫を直信のもとへと送り出しました。

大阪松竹座「壽初春大歌舞伎」

平成28年3月3日(木)~27日(日)

『祇園祭礼信仰記』金閣寺

雪姫 芝雀改め中村  雀右衛門
松永大膳 松本  幸四郎
狩野之介直信 中村  梅 玉
松永鬼藤太 中村  錦之助
春川左近 中村  歌 昇
戸田隼人 中村  萬太郎
内海三郎 中村  種之助
山下主水 中村  米 吉
十河軍平実は
佐藤正清
中村  歌 六
此下東吉 片岡  仁左衛門
慶寿院尼 坂田  藤十郎

 ――お姫様がいて、大悪人の松永大膳、知略に優れた此下東吉、二枚目の狩野之介と、歌舞伎の典型的な役柄がそろうのも面白いですね。

 大膳は強そうですし、東吉は頭がよさそうで、狩野之介は二枚目ですが、力はなさそうです。『鎌倉三代記』にも共通しますが、全部がいい役です。お客様にも満足していただける出し物です。

手を縛られていることを意識した動きに

 ――縛られた雪姫が桜の花びらを集め、爪先で鼠の絵を描く「爪先鼠」は、前回は人形浄瑠璃の動きを模した人形振りでなさいました。

 なんとか縄を切りたいと思う雪姫は、お祖父様の雪舟が涙で描いた鼠が動き出したという故事にならい、爪先で絵を描きます。今回は父の映像を参考に、人形振りではないやり方で勤めます。

 もともとお姫様はあまり手を使わないものですが、雪姫は使いたくても手を縛られております。桜の花びらで絵を描くというのがお客様に伝わらなくてはなりません。父は女方の基本は胸を横に動かすことにある、と言っておりました。一つひとつの姿勢や、女方のやわらかさなど、動けない分だけ縛られているのを意識するような、ちょっとリアルなところも必要かと思います。

 縄を鼠に噛み切らせた雪姫が、最後に花道を入るときに、剣の倶利伽羅丸(くりからまる)をちょっと抜いて刀身に顔を映して髪を直します。あそこが色っぽいですよね。その後に対面するはずの狩野之介に対する思いもあるんでしょうね。

 ――お父様も襲名でなさったお役です(昭和39年9月歌舞伎座)。

 父の時姫や雪姫を、自分はいつできるだろう、という憧れを持って見ておりました。三姫に共通するのは、思いの強さです。生き方に筋が通り、思いを貫き通す。「お姫様がこうだったら面白いな」という思いの表れでしょう。そして、観ているお客様が、「ああ、恋もするし、お姫様も我々と一緒なんだ」と共感されたのではないでしょうか。

ようこそ歌舞伎へ

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