歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」『太刀盗人』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村又五郎

松羽目物らしさのなかに面白さ、おかしみを

 ――「太刀盗人」のすっぱの九郎兵衛は今度の興行で6回目。又五郎さんの当り役の一つですね。

 興行の前に歌舞伎座の朝の「子供歌舞伎教室」で、(市川)團蔵さんのすっぱで、田舎者万兵衛を一日だけ勤めたのが、この狂言に出演した最初でした。私には紀尾井町のおじさん(二世尾上松緑)、(初世尾上)辰之助のおにいさん(三世松緑)の九郎兵衛の印象が強いです。紀尾井町のおじさんのように、松羽目物らしさのなかにも、面白さ、おかしみが出るように勤められたらいいなと思います。

 ――京の都の賑やかな市で、すっぱ、つまりスリの九郎兵衛は万兵衛の刀を奪います。

 太刀を盗むところは、万兵衛をなさる方によって違います。前回(平成27年10月、日本特殊陶業市民会館)も万兵衛は今回と同じ錦之助さんでしたので、相談をしながら勤めます。逆を言えば、くだけない程度に自由に動けるのはすっぱですから、それを活かしていけたらと思います。

『太刀盗人』(たちぬすびと)

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平成27年10月日本特殊陶業市民会館(C)松竹株式会社

 国元へ帰る前に土産物を探そうと、京の寺町へやって来た田舎者の万兵衛。賑やかな新市を歩いていると、誰やら自分の太刀を盗ろうとする者がいます。太刀を手にスリの九郎兵衛は自分の太刀を返せと言い、もちろん万兵衛も譲らず、間に入った目代は、争い事を収めるのが自分の役目と二人から事情を聞き出します。

 しかし、九郎兵衛は万兵衛が話すのを聞いて同じ話をするので、らちがあきません。太刀剣の由緒謂れ(いわれ)を舞で披露させても万兵衛の振りをまねて踊り、出処銘を聞いても同じこと。地肌焼の様子を連れ舞で見せろと言われても、九郎兵衛は隣の万兵衛を盗み見ながら器用に踊って見せました。いよいよ困った目代が太刀の寸尺を問うと、思うところのある万兵衛が、答えは目代の耳元でささやくと言います。必死に盗み聞きしようとする九郎兵衛でしたが…。

きっちりお見せして、ほんわかしたものにする

 ――どちらが本物かを裁定する目代に命じられ、二人は刀の謂れを踊りで表現することになります。謂れを知らない九郎兵衛が万兵衛の所作を盗み見て、少し遅れながら真似る連れ舞が見せ場ですね。

 連れ舞では、万兵衛が定間(拍子をとる間)にならないと、すっぱが半間(定間の半分の拍子)になりません。万兵衛にはその難しさがあります。また九郎兵衛は、すっぱらしさが出ないといけない。

 連れ舞でも、九郎兵衛と万兵衛のすべての所作がずれているわけではありません。ずれるといっても、全部に振付が付いているので、きっちりとお見せすることが大切で、そこがまた難しいところです。連れ舞がずれてくると、「どちらがすっぱなんだ」というように見えてしまいます。

 お客様に楽しんで見ていただくことが大事なわけですから、踊り込むとか、踊りで何かをお見せするというよりは、全体を見て楽しくほんわかしたものにできればいいなと思います。

 ――九郎兵衛を警戒しだした万兵衛は、相手に聞こえないように刀の説明を目代にだけ耳打ちをするようになります。九郎兵衛も目代に小声でごまかすように話します。

 「耳を貸してください、内緒話しましょう」みたなところを面白くできたらと思います。

 ――すっぱであると見破られ、衣裳を脱がされると体中に盗品が吊られています。

 上に一つ着て、脱ぐと盗んだものが全身から吊られている。これね、結構暑いんです(笑)。最後にすっぱであると露見して逃げるところは、もう本当に面白おかしくきっちりと、ただ走るのではなく、お三味線の合方に合わせて引っ込みます。

ようこそ歌舞伎へ

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