歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



大阪松竹座「二月花形歌舞伎」祇園祭礼信仰記『金閣寺』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村歌昇

何が難しいかわからないくらい難しい

 ――『金閣寺』の東吉を初役で勤められます。

 若手花形の公演で、昼夜ともに義太夫物の大作が上演されます。そこで、播磨屋のおじさん(吉右衛門)が、吉右衛門襲名でなさった役でもある東吉を勤められることがうれしいです。播磨屋のおじさんにお稽古をしていただきまして、簡単なお役ではないことを痛感しました。

 ――東吉の人物像をどうとらえていらっしゃいますか。

 歴史に登場する本物の豊臣秀吉、木下藤吉郎と、歌舞伎で秀吉をモデルにした東吉とは、かなりキャラクターが違います。実説では猿に似ていたといわれますが、歌舞伎では『楼門五三桐』でも『絵本太功記』「十段目」でも、東吉や久吉は二枚目のすっきりとしたお役です。

 『金閣寺』の東吉には、碁盤を持っての見得など見せ場もたくさんあります。前半は大膳にゴマをすり、久吉の正体を顕してからはすっきりとした姿で、鎧を着てさっそうと現れます。

 ―― 一人の人物ですが、かなり違った人物像になりますね。

祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)『金閣寺』(きんかくじ)

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(C)加藤 孝

 将軍を暗殺し、その母慶寿院を人質に、天下をねらう松永大膳。金閣寺に立てこもり、天井画の龍を描かせようと絵師の狩野之介直信とその妻、雪姫も幽閉しています。弟の鬼藤太と碁打ちに興じていると、使いにやった十河軍平が、自分に奉公したいという此下東吉を連れてきました。大膳は碁笥(ごけ)を井戸へ投げ入れて無理難題を吹っかけますが、東吉の見事な答えに満足し、家臣に迎えることにします。
 雪姫は夫のため、大膳の心に沿うと申し出ますが、大膳が父の敵とわかって刃向かい、逆に桜の木に縛られてしまいました。絵師の娘、雪姫は悲しみの涙で鼠を描き、その鼠に縄を食いちぎらせて連れ去られた夫のもとへと急ぎます。それを助けたのが東吉。実は慶寿院を救い出そうと、家来の佐藤正清を軍平として大膳のもとへ送り込んでいた真柴筑前守久吉でした。久吉と正清は慶寿院を解放し、大膳に立ち向かっていきます。

 役が変わるわけではありませんが、前半と後半の差をつけなければなりませんし、ニュアンス的に細かいんです。かといってガラッと変わりすぎてもいけない。本当につかみどころのない役で、何が難しいというのが、わからないくらい難しい。せりふ回し、形、所作などに高いレベルが求められると思います。

 東吉は大膳の軍師となるふりをしているわけですが、それが端からわかってしまうと面白くないですし、匂わせつつも自分の任務を全うしようとします。最終的には大敵の大膳に勝つような、役としての大きさを少しでも出せればと思います。

碁も打ちます、木も登ります

 ――初役の今回はどこに気を付けられますか。

 ただものではないというところも必要なのかなと思います。高い調子(の声)をしっかり使って、なおかつ落ち着いた声でスッキリとお見せするとともに、子どもっぽくなってしまわないよう、気をつけるつもりでおります。

 ――碁を打つ場面がありますが、歌昇さんはなさいますか。

 基本的なルールは知っております。あんなに短時間に、打つようなことはできませんが、演じる俳優は、毎日本当に勝負している、と聞いたことがございますので、勉強して打ちたいと思います。

 ――慶寿院を救いにいくときには、桜の木を登りますね。

 あの衣裳で、そこまで動く役も珍しいと思いますが、その敏捷さが、モデルとなった木下藤吉郎らしさなのかと思います。といっても、軽々しくならないように勤めたいです。

ようこそ歌舞伎へ

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