歌舞伎いろは

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歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」『梶原平三誉石切』『壽曽我対面』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 九代目 坂東彦三郎

祖父、父と同じ十五代目羽左衛門型で

 ――ご襲名おめでとうございます。今はどんなお気持ちですか。

  生まれ育った家も、選んだ仕事も歌舞伎役者です。彦三郎にならなければ落第という思いが自分の中にあったかもしれません。

 襲名で演じる役は大きいですが、演じる過程は一緒で、父(初代坂東楽善)も弟(三代目坂東亀蔵)もおりますので、今の時点では、緊張感はあまり感じていません。祖父(十七世市村羽左衛門)の芸を受け継いだ父から、渡してもらえる環境での襲名は心強いし、うれしいです。そこに弟がいるのは百人力です。

 ――昼の部で『梶原平三誉石切』の梶原平三をなさいます。初役ですね。

 父が二代目坂東亀蔵襲名(昭和47年5月歌舞伎座)、祖父が十七代目市村羽左衛門襲名(昭和30年10月歌舞伎座)で演じた役です。外題は二人が演じた際の『名橘誉石切(なもたちばなほまれのいしきり)』とは違いますが、僕も二人と同じ十五代目羽左衛門型で勤めます。父が祖父から受け継いだ羽左衛門型を教わります。

 襲名が決まり、希望する演目を出したなかに、『梶原』も『対面』もありました。いつかやりたいし、やることになるだろうと思っていました。梶原方の大名で出演したこともあります。父には「平常心でいなさい。今持っている以上のものはできないんだから」と言われました。

歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」

平成29年5月3日(水・祝)~27日(土)

『梶原平三誉石切』鶴ヶ岡八幡社頭の場

梶原平三 亀三郎改め 坂東  彦三郎
俣野五郎 亀寿改め 坂東  亀 蔵
剣菱呑助 尾上  松 緑
奴菊平 尾上  菊之助
山口十郎 坂東  巳之助
川島八平 大谷  廣 松
岡崎将監 市川  男 寅
森村兵衛 市村  橘太郎
尾上  右 近
六郎太夫 市川  團 蔵
大庭三郎 彦三郎改め 坂東  楽 善

 ――十五代目型は、どう思われますか。

 十五代目型では、六郎太夫親子に刀の切れ味を見せようと、梶原が手水鉢を正面を向いて切ります。花道の幕外でも派手で、刀を自分で持って入ります。役者の魅力で見せる型です。十五代目に近づくというより、今できる僕の十五代目型になると思います。

あの梶原です、と申し上げたい

 ――作品についてはいかがでしょう。

 歌舞伎に登場する梶原景時のなかで、唯一といってもいいほど好人物に描かれている芝居です。『熊谷陣屋』や『義経千本桜』の「すし屋」に登場するあの梶原と同じ人物ですよ、と皆さんには申し上げたいです。どんな作品に出てきても義経は義経。梶原ぐらい、作品によって、異なる性格に描かれる人物は少ないでしょう。石橋山の戦いで敗れた源頼朝を助けたのは事実です。頼朝から見ればいい人間で、対立する義経から見れば敵役になる、ということなんでしょうね。

 ――お父様の楽善さんが、大庭、弟の亀蔵さんが俣野をなさいます。

 父と弟が兄弟の役を演じるんですよね。芝居の前半に二人がいてくれるのは心強いです。菊五郎劇団で一緒の松緑さん、菊之助さん、團蔵さんたちが出てくださるのも、ありがたいです。

『梶原平三誉石切』(かじわらへいぞうほまれのいしきり)

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 早春の鎌倉は鶴岡八幡宮へ参詣に来た、平家方の大庭三郎と俣野五郎の一行。あとから同僚の梶原平三もやってきました。そこへ大庭に頼みがあると訪ねてきたのは、青貝師六郎太夫と娘の梢。家宝の刀を買ってもらいたいと差し出しました。かねてより大庭が所望していた刀でしたが、念を入れて梶原に鑑定を求めます。目利きの梶原から家宝にされよとのお墨付きを得た大庭は、金の用意を命じますが、俣野が斬ってみないことにはと口をはさむので、二つ胴の試し斬りをすることになりました。

 ところが、死罪の科人は剣菱呑助一人きり。娘のためにすぐにも金の必要な六郎太夫は、用事を言いつけて娘を家に戻らせ、自分を重ねて斬るよう懇願します。俣野が斬ろうとすると、目利きをした自分を差し置いて無礼なと、梶原が斬り役を替わりました。あとを頼む六郎太夫、家から戻って目の前のありさまに驚き嘆く梢…。かたずをのんで皆が見守る中、梶原の刀が振り下ろされました。

ようこそ歌舞伎へ

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