歌舞伎いろは

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歌舞伎座「十二月大歌舞伎」『蘭平物狂』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 尾上松緑

息子と共演して変わった蘭平の思い

 ――蘭平の息子の繁蔵を長男の左近さんが勤められます。

 前回の平成26(2014)年の上演が左近襲名でした。そこで僕の蘭平で繁蔵を初演し、今回が2回目です。繁蔵をやるには本当はちょっと大きいかもしれませんが、彼に僕の蘭平をもう一度、生で見せておきたいと思いました。

 今、活躍している若手には、僕の蘭平で繁蔵に出られた方がたくさんいらっしゃいます。(坂東)巳之助さん、(尾上)右近さん、(中村)鶴松さん、(上村)吉太朗さん。皆さん成長され、大人の役をなさっているのを見ると感慨深いものがあります。巳之助さんが繁蔵をなさったときには、まだ僕には子どもがいませんでした。子どもが生まれてから、蘭平をやると、また思い入れも違ってきます。

 ――どこが変わられましたか?

 我が子に捕えられると、こんな気持ちになるのかと思いました。蘭平実は伴義雄は、自分の息子になら処刑されてもいいと思っています。伴義雄の頭にあるのは父の敵を取ることとお家再興です。彼はそれを天秤にかけた結果、家の再興を息子に託すほうをとるわけです。

 息子に後を継がせるためならば、という気持ちは僕にもわかります。私自身も息子を、自分の子としてというよりも、祖父や父から預かっている気持ちでおりますので、重なって考えられる部分が非常にありますね。

歌舞伎座「十二月大歌舞伎」

平成29年12月2日(土)~26日(火)

倭仮名在原系図『蘭平物狂』
(やまとがなありわらけいず らんぺいものぐるい)

奴蘭平実は伴義雄 尾上  松 緑
壬生与茂作実は大江音人 坂東  亀 蔵
水無瀬御前 中村  児太郎
一子繁蔵 尾上  左 近
女房おりく実は音人妻明石 坂東  新 悟
在原行平 片岡  愛之助

八重之助さんに見てもらいたかった

 ――左近さん、前回の繁蔵のときはいかがでしたか。

 めちゃめちゃ緊張していたみたいです。また、繁蔵をやっていると自分の拵え(こしらえ)があるので、立廻りをあまり見られなかったようです。だから、彼のなかでは僕の立廻りというと、蘭平よりも『丸橋忠弥(慶安太平記)』(平成27年5月歌舞伎座)のほうのイメージが強いみたいです。

 ――どちらも名立師の坂東八重之助さん(1909-1987年)が立廻りを考えられました。違いはどこにありますか。

 忠弥は立廻りの後に捕縛されて終わりますが、蘭平は立廻りの後に芝居があります。しんどさは同じですが、その後に繁蔵との芝居がありますので、それが辛いです。

 ――八重之助さんはどんな方でしたか。

 僕が存じ上げたのは最晩年で、じいちゃんと呼んでおりました。可愛がっていただきましたが、お若い頃は大変に怖かったみたいです。八重之助さんの忠弥と蘭平の両方を演じたのは僕だけですから、舞台を見ていただきたかったという思いはありますね。

 ――立廻りでは何に一番気を付けられますか。

 全体的なペース配分です。真ん中にいる蘭平を軸に立廻りは進んでいくわけですから、冷静さを失ってはいけない。立廻りに出る人たちは皆、蘭平を見て動いていきます。扇子は要がしっかりしていないとバラバラになりますし、桶もタガがないと外れてしまいます。締めるところをきっちり締めて後は任せるということです。

ようこそ歌舞伎へ

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