歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「十二月大歌舞伎」『蘭平物狂』
松緑さんのこと、お教えします

ようこそ歌舞伎へ 尾上松緑

父、祖父が大事にしてきた『土蜘』

 ――第一部では『土蜘』を踊られます。

 襲名(平成15年6月博多座)で演じて以来です。新古演劇十種なので、音羽屋宗家にお許しをいただきました。一生をかけて演じていきたい作品ですので、1回目のつもりで勤めます。

 ――太刀持音若は左近さんが初役で演じられます。ご襲名のときに、「子どもができたら、太刀持に出したい」とおっしゃっていましたね。

 タイミング的に息子の太刀持もぎりぎりだと思います。僕は父と祖父の両方で太刀持を勤めていますが、二人とも怖かったです。いろいろな役で父と祖父の側に出ましたが、『土蜘』のときがいちばん怖かった。それだけ二人ともこの作品を大事にしていたのだと思います。ほかの作品では、「明日は気をつけるんだよ」で済むことが、『土蜘』ではものすごく注意されたり、怒られたりしました。

 ――前シテの僧智籌(ちちゅう)は、音もなく揚幕から出て、気付かない間に花道を進み、源頼光の側近くに来ています。

 『茨木』もそうですが、「松羽目物」ですから幽幻に格調高く、品を持って勤めなければいけません。智籌の間は踊りながらも動き過ぎないことが大切です。智籌はこの世のものではない存在です。動きすぎると人間っぽくなってしまいます。頭巾にしても影が蜘蛛に見えるような被り方をしています。踊り込んでいる人間が体を殺し、動かないで動いているように見せなければいけません。

 この間の『茨木』(平成23年12月日生劇場)などで得た経験を活かしたいと思います。西洋的なモンスターではなく、背筋がちょっと寒くなる和のテイストを目指します。

 ――後シテの蜘蛛の精の本性を現してからはいかがでしょうか。

 後は立廻りになり、音も派手です。糸も投げますし、楽しんでいただければと思います。

 ――この公演で今年も終わりです。どんな年でしたか。

 42歳になりました。40歳を不惑といいますが、僕は、惑い迷った年のような気がしております。たとえば、歌舞伎座2月の『大商蛭小島(おおあきないひるがこじま)』の源頼朝のような、柄ではない役をどう演じたらいいのかと考えたのは、いい迷いだったのかもしれませんが、新しい役を勤めると課題ができて惑いますし、再演でも、前回と同じでいいだろうかと思い、やり方を変えると、前回を否定してよいか、と惑いも出ます。来年は地に足を付けることを目標にいたします。

尾上松緑 音羽屋!

四代目 尾上松緑さんをもっと知りたい!

尾上松緑(おのえ しょうろく)

生まれ 昭和50年2月5日、東京都生まれ。
家族 初代尾上辰之助(三代目松緑)の長男。息子は三代目尾上左近。
初舞台 昭和55年1月国立劇場『戻橋背御摂』「山姥」怪童丸後に坂田金時で藤間嵐の名で初お目見得。同56年2月歌舞伎座『極附幡随長兵衛』一子長松で二代目尾上左近を名のり初舞台。
襲名 平成3年5月歌舞伎座『壽曽我対面』曽我五郎時致、『勧進帳』源義経ほかで二代目尾上辰之助を襲名。同14年5・6月歌舞伎座『義経千本桜』佐藤四郎兵衛忠信/佐藤忠信実は源九郎狐、『勧進帳』武蔵坊弁慶、『蘭平物狂』奴蘭平実は伴義雄、『船弁慶』静御前/新中納言平知盛の霊ほかで四代目尾上松緑を襲名。
この一年の舞台

平成28年

12月 「平成28年12月歌舞伎公演」(国立劇場)
『仮名手本忠臣蔵』「十一段目」小林平八郎

平成29年

1月 「平成29年初春歌舞伎公演」(国立劇場)
『しらぬい譚』鳥山秋作
2月 「猿若祭二月大歌舞伎」(歌舞伎座)
『大商蛭子島』正木幸左衛門実は源頼朝/『四千両小判梅葉』浅草無宿才次郎/『門出二人桃太郎』猿彦
3月 「三月大歌舞伎」(歌舞伎座)
『神楽諷雲井曲毬』親方鶴太夫
4月 「四国こんぴら歌舞伎大芝居」(旧金毘羅大芝居)
『忍夜恋曲者』大宅太郎光圀/『身替座禅』太郎冠者
5月 「團菊祭五月大歌舞伎」(歌舞伎座)
『梶原平三誉石切』剣菱呑助/『魚屋宗五郎』磯部主計之助/『伽羅先代萩』荒獅子男之助/『弥生の花浅草祭』武内宿禰・悪玉・国侍・獅子の精
6月 「六月大歌舞伎」(歌舞伎座)
『名月八幡祭』縮屋新助/『一本刀土俵入』船印彫師辰三郎
8月・9月 「松竹大歌舞伎」西コース(全国公演)
『猩々』猩々
11月 「平成29年11月歌舞伎公演」(国立劇場)
『坂崎出羽守』坂崎出羽守成政/『沓掛時次郎』六ッ田の三蔵

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