歌舞伎文様考
荒ぶる魂を表現するための文様
初代市川團十郎が金平人形浄瑠璃芝居にヒントを得て創始したと言われる“荒事”は、豪快な時代背景から庶民の熱狂的な支持を獲得しました。
『鳴神』や『暫』といった狂言に登場する“荒ぶるヒーロー”たちは、もともと勇者が悪霊を鎮める芸であり、死者の怨みを鎮める御霊信仰から生まれたとも、日本古来の荒魂(あらみたま)信仰と繋がるものとも言われています。
元禄11年(1698年)に『鳴神』が上演された時の狂言本には「現人神か鳴神かとみなみな恐れて見えにけり」(『源平雷伝記』)とあることからも、歌舞伎の荒事の系譜が荒人神の系譜であったことが読み取れます。
荒事の豪快さを引き立てる衣裳は、そうした日本古来の信仰のルーツを今に残します。
『暫』の登場人物がつけている仁王襷(におうだすき)は一種の呪力を表すもので、奥三河の花祭りや新野の雪祭りにあらわれる鬼の大襷からの系統です。
また、『暫』の登場人物が頭髪につけている力紙(ちからがみ)も荒事を象徴する拵えのひとつです。力紙は、強力な人間が怪力を現すという場面で登場人物につけられているもので、『女暫』や『桃太郎』といった荒ぶるヒーロー以外の衣裳にも見られます。この力紙のルーツは、相撲の土俵の四本柱の東西に配された力紙にあるとも、日本各地に伝わる山伏神楽の「荒舞」にあるとも考えられています。どちらも力紙は場や身につけている人を清め、さらに力をつけるという信仰に基づいたものです。
登場人物の衣裳に注目すれば、歌舞伎の荒事は古い伝統儀礼を新しい感覚と演出で構成しなおしたものだということが見えてきます。それが江戸の人々を熱狂させたひとつの理由なのでしょう。

力紙と仁王襷を着けた鎌倉権五郎『暫』より。豊原国周画(明治11年)。

力紙を着けた朝比奈三郎義秀『初日影三筋隈取(はつひかげみすじのくまどり)』より。豊原国周画(明治24年)。
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仁王襷を着けた狐忠信『義経千本桜』より。歌川豊国画(安政3年)
錦絵は3点とも早稲田大学演劇博物館所蔵。無断転載禁 |
歌舞伎文様考
バックナンバー
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『助六由縁江戸桜』では傾城揚巻が豪華な打掛を脱ぐと、真っ赤な着物に金色の豪華な火焔太鼓があしらわれ観客の目を奪います。これも火焔文様がモチーフ。
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歌舞伎を、そして劇場を文様で読み解く新趣向の知的探訪。本日は東銀座の歌舞伎座を訪れました。
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