歌舞伎文様考

『妹背山婦女庭訓 三笠山御殿の場』 杉酒屋お三輪の衣裳

『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) 』杉酒屋娘おみわ。こちらは麻の葉文様の振袖を身につけている。三世歌川豊国画 嘉永5年(1852年) 早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁©The TsubouchiMemorial Museum, WasedaUniversity, All Rights Reserved.
仏像の装飾や建築物を彩るモダンな連続文様
正六角形を基本とした麻の葉文様は、形が麻の葉に似ていることから近世になってその名が付けられました。
文様自体の歴史は古く、平安時代には、金箔を溶かして重ね合わせ細い糸のように切って仏像や仏画に華麗な文様を装飾する「切金(きりかね)」や鎌倉時代の繍仏(刺繍による仏像)の文様にすでに見られ、室町時代には建築、彫刻、染織、漆工などに広く用いられています。
歌舞伎の中で麻の葉文様は、娘役の襦袢や帯に使われる柄としておなじみです。『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』のお三輪が身につけている帯は、黒繻子(くろしゅす)と鹿の子絞りの麻の葉文様を組み合わせたもの(左写真)。あどけなさ、可憐さを表わす町娘役に欠かせない文様のひとつです。
歌舞伎文様考
バックナンバー
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第14回 火焔文様 〜内に秘めた荒ぶる魂
『助六由縁江戸桜』では傾城揚巻が豪華な打掛を脱ぐと、真っ赤な着物に金色の豪華な火焔太鼓があしらわれ観客の目を奪います。これも火焔文様がモチーフ。
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第13回 『源氏物語』の世界を象徴する文様
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第12回 特別対談 ゲスト:ひびのこづえさん(2)
前回に続き、話題の作品の衣裳を手がけ続けてきたコスチューム・アーティストのひびのこづえさんと、東京藝術大学先端芸術表現科教授の伊藤俊治さんとの対談です。
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第11回 特別対談 ゲスト:ひびのこづえさん(1)
話題の作品の衣裳を手がけ続けてきたコスチューム・アーティストのひびのこづえさんと、東京藝術大学先端芸術表現科教授の伊藤俊治さんとの対談です。
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第5回 絢爛な衣裳を彩る文様
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第4回 “演技する”文様
十七代・長谷川勘兵衛さんを訪ねての対話から、文様に込められた役者と道具方との息の合った舞台創り、受け継がれる文様の美を紐解きます。
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第3回 「大道具」役者と道具方との対話
武家屋敷や御殿にはたくさんの文様が散りばめられています。様々な文様は俳優と道具方の密な関係によって歌舞伎が創られてきたことを物語ります。
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第2回 「劇場」芝居の歴史と気分を語る文様
歌舞伎を、そして劇場を文様で読み解く新趣向の知的探訪。本日は東銀座の歌舞伎座を訪れました。
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第1回 「序章」歌舞伎は文様のデータベース
歌舞伎の衣裳や大道具、役者紋などから様々な文様をとりあげ、江戸が生んだ最先端デザインに注目。文様に秘められた物語を発掘します。