歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



楮を干す間、まんべんなく陽に当たるよう気を配る。

染み入る寒さと丁寧な手作業が命

 農家の冬の間の副業として続いてきた和紙作りは、田畑の収穫の終わる晩秋に、楮を刈り取るところから作業は始まる。刈り取った楮は80cmほどに切りそろえて束ね、釜で2~3時間蒸かして冷水につけてから、一本一本手作業で皮を剥く。剥いた皮はいったん乾燥させてからまた水につけ、柔らかくしたところで一本ずつ表皮をこそげて取り除き、白い部分だけにする。この白い皮を雪にさらすのだ。
「これは20日ほどかかる作業。化成ソーダを使えば黒い部分を取り除く手間も、雪にさらす日数も少なくて済むけれど、出来上がった紙は正直。薬品を使った紙は結局長持ちしない」

 そこからまたいくつかの工程を経て、いよいよ紙漉き作業にはいる。表面の滑らかな紙を漉くためには、簀(すのこ)の繊細さも重要。今さんが使うのは四国で人間国宝に認定されている職人の作ったものだ。
「こうした道具を作ってくれる人も少なくなって、良い紙を漉くのも一苦労ですよ」
漉くときに楮と混ぜる糊を「にれ」と呼ぶが、深山和紙はこの「にれ」をノリウツギという植物からとる。
「にれと楮の配合は一定ではありません。どんな用途に使う紙かでいろいろ塩梅します」

 今さんは注文で紙を漉くことも。前述のように古文書や歴史的建造物の建具などに使われるもの、書道家や画家が使うもの、人形作家が使うものなど、それぞれの用途や作家によって、求められるものが違うという。
「繊細な線を再現したい銅版画などは、特に表面の滑らかさが重要。書道家の人はそれぞれ筆のすべりに好みがあるから、人によっていろいろですね」

 簀を縦と横、十字にゆすって漉きあげるのは、深山和紙の特徴。冬の染み入るような寒さの中、今さんは冷たい水に手を入れて、和紙を漉き続けている。

今利一郎

住所

 : 

山形県西置賜郡白鷹町大字深山621

TEL

 : 

0238-85-4636

※一般の方でもご購入頂けます。

上/専用の包丁で、楮の皮から黒い表皮を丹念に取り除く。
中/簀を十字に振り、滑らかでごく薄い和紙に漉き上げる。右は今さん愛用の簀。
下/3枚の簀を使って手際よく作業を進める。

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