桜と歌舞伎 桜と歌舞伎

『祇園祭礼信仰記 金閣寺』雪姫の衣裳はこちら
『祇園祭礼信仰記 金閣寺』舞台装置はこちら

 桜舞い散る金閣寺を舞台に描かれる、義太夫狂言の傑作と称される作品です。
 謀反人の松永大膳により金閣寺に囚われた雪姫は、天井に龍を描くか、さもなくば自らに従うかと迫られています。しかし大膳が父親を殺したと知った雪姫は、彼に刃向かい、逆に桜の木に縛りつけられてしまいます。
 嘆き悲しむ雪姫は、祖父雪舟の故事を思い出し、桜の花びらを足で集め、つま先で鼠を描きますが、そのとき不思議なことが…。この、芸術が起こす奇跡を描いた名場面では、舞台いっぱいに散り花がふりそそぎます。桜吹雪のなかにたたずむ雪姫の幻想的な姿に引きこまれ、桜花爛漫の美しい舞台を堪能できる一作です。

桜といえばやはり『金閣寺』。平成30(2018)年、秀山祭の『金閣寺』が私にとって初めての古典歌舞伎でした。観劇に作法があるのでは、難しいのでは、と恐る恐る歌舞伎座へ行ったことを今でも覚えています。そして花吹雪のなかで悲嘆に暮れる雪姫の美しさ、はらはらと舞い続ける桜の美しさに、舞台に釘付けになり、息をのむとはこのことだと身をもって体験しました。あの美しい情景は今でも鮮明に覚えています。(さっちゃんさん・30代)

美しい桜吹雪のなかに、縄で縛られる美しいお姫様、そんなお姫様を足蹴にする悪党…まるでお伽話の1ページのようでもありながら、松永大膳のサディスティックな色気、姫の可憐でありながら漂う妖艶さに圧倒されました。「これは浮世絵にしたくなるだろうな」と江戸時代の絵師に共感してしまうくらいの美しい舞台でした。(rabbiさん・30代)

(LACMA)

 大化の改新の時代を題材にした、スケールの大きな王代物『妹背山婦女庭訓』。そのなかでも「吉野川」の場面は、満開の桜のなか展開される悲劇が胸を打つ、義太夫狂言の大作です。
 吉野川を挟んで両岸に位置する大判事家と太宰家は、所領をめぐって対立関係にありましたが、それぞれの息子久我之助と息女雛菊は相思相愛の仲。そのような折、大判事清澄と太宰後室定高は蘇我入鹿から、久我之助の出仕と雛菊の入内を命ぜられます。不和の仲とはいえ、互いに我が子を犠牲にし、相手の子どもだけは助けようとの心づもりで、二人は申し合わせていた合図を偽って送りますが…。
 「花渡し」の場で、蘇我入鹿は大判事と定高の心底をうかがい、それぞれに桜の枝を渡しますが、この桜の枝が、続く「吉野川」の場面において重要な役割を果たします。満開の桜と舞台中央に流れる吉野川の鮮やかな水面のコントラストが美しく、物語からも、視覚的な面からも、桜のさまざまな魅力を存分に堪能できる重厚なひと幕です。

生の舞台は文楽が先だったのですが、床も両床で、太夫の語りもよく、舞台セットも他にない美しさ。その後歌舞伎座で拝見した日は初日、客席も緊迫していて強烈な印象でした。桜に因んだ演目も多いなか、華やかな演目より、散りゆく桜の哀れの方が、桜に因んでいるかなあと。雛人形も。(ペンネームなしさん)

満開の桜の間を流れる吉野川、その明るい舞台に向かって両花道から登場する両方の親の苦悩が、舞台の桜が美しいだけに、深く思われる。(はまゆうさん・70代)

 盗賊石川五右衛門を描いた狂言の一つ。なかでもよく上演されるのが「南禅寺山門の場」、通称「山門」とよばれる、五右衛門と真柴久吉が京都南禅寺で相対する場面です。比較的上演時間が短い作品ですが、豪華絢爛な山門の大道具がせり上がっていく大仕掛け、敵役姿の五右衛門に巡礼姿の久吉という見た目の対比、二人のせりふのやりとりなど、歌舞伎らしいスペクタクルが詰まった見応えある演目です。
 桜花爛漫の南禅寺、極彩色の山門に悠然と座り煙管をくゆらす石川五右衛門。豪快で凄みのある大盗賊が、春の夕暮れに桜を愛でるという、なんともおつな風情がたまらないひと幕です。

私は、この演目がとても好きで、短い時間であるものの歌舞伎の世界を存分に感じられる演目だと思います。豪華なセットに負けない役者の大きさが、まるで浮世絵のようでした。桜が関わる歌舞伎の演目のなかでも、山門はひときわ舞台上に桜が映え、五右衛門のせりふにもあるように「絶景かな」と思える桜でした。(北斗七星さん・10代)

母に連れられた歌舞伎座で人生で初めて観た演目。そして歌舞伎の魅力にとりつかれた演目。一面の桜と、大ぜりにすべてを持っていかれた!(いまけいさん・20代)

歌舞伎座「三月大歌舞伎」『楼門五三桐』が、歌舞伎オンデマンドで4月21日(水)まで配信中です。ぜひご覧ください。

 「六歌仙」の世界と、謡曲「墨染桜」の趣向を用いた舞踊劇。雪の降り積もる逢坂山の関所で、小町桜と呼ばれる桜の大木が、時ならぬ満開の花を咲かせています。舞台中央で存在感を見せるこの小町桜は、先帝崩御の際にはその死を悲しみ、薄墨色の花を咲かせた不思議な桜。物語の後半、大願成就のため大斧で桜の大木を伐ろうとする関守・関兵衛の前に、小町桜の精が、傾城墨染として姿を現します。
 桜の幹の内に傾城の美しい姿が浮かび上がる演出は、桜の精の登場にふさわしい幻想的な雰囲気にあふれ、また、関兵衛と墨染がそれぞれの本性を現し、桜の幹を回って繰り広げる激しい立廻りは、華やかなみどころの一つです。

(個人蔵)

When I was young, I read the story of ‘Love at the Snowbound Barrier Gate’ and it sparked my imagination. Later, when I lived in Tokyo I saw this dance drama many times at the Kabukiza. In particular, I like the antique and exaggerated atmosphere, which makes this work seem magical. The scenery of the big cherry tree flowering in the snow is also beautiful and creates an air of fantasy. The 3 characters of Komachi, Munesada and Sekibē are interesting because they are all different from each other, but the character of Sumizome, the spirit of the cherry tree, is my favourite. The cherry tree transforms into a human courtesan in order to take revenge on the wicked Sekibē. Her first appearance from inside the tree trunk is wonderful.
(意訳:若いころに『積恋雪関扉』の物語を読んで、衝撃を受けました。 その後、東京の歌舞伎座でこの舞踊劇を観ました。この作品を魔法のように見せる大時代の雰囲気が大好きで、 雪の山中に咲きほこる満開の桜は、ファンタジーの世界を感じさせます。 それぞれ個性のある小町と宗貞、関兵衛はいずれも興味深い役ですが、特に私は、桜の精の墨染が気に入っています。 桜の木が安貞の仇を討とうと、人間の姿となり、傾城として悪役の関兵衛に近づく。彼女が最初に、木の幹から現れるシーンは素晴らしいです)(Paulさん)

なにせ主人公のひとりが桜ですから、桜といえば『積恋雪関扉』でしょう。「花の色は」の小野小町に「墨染に咲け」の墨染、桜に因んだ役名も心憎い。常磐津の名曲と衣裳の美しさも、聞きどころみどころです。(なかぞうさん・50代)