歌舞伎には、さまざまな刀が登場します。不思議な力をもつ名刀を中心に展開する物語や、刀鍛冶や太刀持が登場する物語など、その役回りは実に多彩です。刀が印象的な歌舞伎といえば、皆様はどの演目を思い浮かべますか。
歌舞伎美人では「あなたがえらぶ“刀と歌舞伎”」と題し、「刀といえば、この演目!」と思う作品を募集。ご自身が思うみどころやご観劇時のエピソードとともに、多くのご投稿をお寄せいただきました。今月は、特に皆様からお声が多く挙がった作品を中心に、刀に関連する歌舞伎演目をご紹介します。
歌舞伎に登場する刀のなかには、実在する刀も多く存在します。ぜひ、歌舞伎で刀が紡ぐ物語を紐解いてみませんか。
籠釣瓶花街酔醒
籠釣瓶
桜満開の吉原で、兵庫屋八ツ橋の絢爛豪華な花魁道中に出会い、そのあまりの美しさと妖艶なほほえみにすっかり心をうばわれてしまった佐野次郎左衛門。前半の様子から一変、八ツ橋に愛想尽かしをされた次郎左衛門が名刀「籠釣瓶」を手に再び吉原に現れ凶行に及ぶ様子は、緊迫感あふれる名場面です。実際の事件をもとにした講談「吉原百人斬り」を題材とし、まさに一本の刀が一人の男の人生を変える物語に、最も多くの票が集まりました!
刀とは縁もゆかりも無い主人公がただ一度の辱めのせいで手に入れた刀をふるってしまう怖さ、哀れさに理不尽な思いも重なってしまうお芝居だと思います。(きのこさん・70代)
怪談のようなイメージの「吉原百人斬り」は、なんと実話とのこと。あばたの男が花魁にふられて惨劇へ。玉三郎の流し目、勘三郎のあばた顔。「そりゃあんまりそでなかろうぜ」「籠釣瓶はよく斬れるなあ」動く浮世絵のような様子にうっとりしたりゾッとしたり…シネマ歌舞伎の鑑賞でしたが、いつかは歌舞伎座で観たいです!!(メアリーさん・50代)
初めてこの演目を観たときの吉右衛門さんの演技が忘れられません。幕切れに刀を見つめる怪しい笑顔に歌舞伎の真髄をみました。(シャン太さん・50代)
吉右衛門さんの通し狂言を思い出します。地味な前段ながら、次郎左衛門と妖刀「籠釣瓶」のめぐり合いを知ると、見慣れた演目がまた違った印象になりました。実直な人柄の次郎左衛門が、ほんの小さな心の油断を妖刀に着け込まれ人殺しとなる、その由縁がわかり、悲壮感とともに最後のせりふがいっそう印象深いものになりました。(菊さん・60代)
大詰「立花屋二階の場」で、佐野次郎左衛門が満座での恥辱を晴らすため、花魁八ツ橋を妖刀村正「籠釣瓶」で一刀のもとに斬り殺す場面は、幕開けの「見染の場」「縁切りの場」とともにみどころです。倒れ込む八ツ橋を見下ろしつつ、妖刀を燭台に透かして、狂気に満ちた目で「籠釣瓶はよく斬れるなぁ」と笑みを浮かべるエピローグは、観ていてゾッとしてしまいます。(天丼さん・70代)
ラストシーンの「籠釣瓶はよく斬れるな」が強く印象に残っています。実直な主人公を凶行に走らせたのは、妖刀の力によるものではないかと思わせる恐ろしいシーンでした。(ペンネームなしさん・20代)
梶原平三誉石切
源平の争いを描いた歌舞伎作品によく登場する梶原平三景時。このお話では、平家側と見せて実は源氏の方に心がある人物として描かれています。早春の鶴ヶ岡八幡宮で、梶原平三景時が行う刀の目利きや、二つ胴の試し切り、そして石の手水鉢を切って刀の切れ味を示す場面と、刀を用いたたくさんの印象的な場面が、景時の人物像とともに深く記憶に残ります。
初めて歌舞伎座の最前列で観た芝居がこれでした。片岡仁左衛門の梶原平三で、刀の目利きの際に折に触れて決まる形の良さ、何より、仁左衛門さんの見事なせりふ回しが印象に残っています。手水鉢を刀で真っ二つに斬り、その間からポンと飛び出してくる姿が実に格好良く、わくわくしました。その後、この手水鉢を切る形が役者によって違うと知り、それから歌舞伎を毎月観るようになりました。まさに歌舞伎に虜になったきっかけでした。(片岡直太郎さん・40代)
平成4(1992)年、私が歌舞伎座デビューのときに観た演目の一つでした!手を清め、息がかからないように丁寧に丁寧に鑑定された刀。六郎太夫は斬らなかった刀。上手鉢は真っ二つに斬った刀。吉右衛門さんの颯爽とした梶原景時!とてもとても格好良かったです。鶴ヶ岡八幡宮に奥行きがあるように見えたり、鮮やかな衣裳だったり。わぁ〜歌舞伎スゴい!ってなりました。(歌舞伎あらふぃふさん・40代)
悪役で登場することの多い梶原景時が、思慮深く情けもある名将として活躍するのが珍しい。刀の目利きをするときの眼差し、悪口雑言に堪える辛抱、最後の豪快な石切など、みどころが多い。(おちびのミイさん・60代)
何度も観劇している演目であり、通常なら切れないものを刀剣と使い手の技で切る部分が見せ場で、印象が強い。(ただのぶさん・40代)
歌舞伎座新開場10周年記念特集『梶原平三誉石切』が、歌舞伎オンデマンドで7月31日(月)まで配信中です。ぜひご覧ください。
伊勢音頭恋寝刃
青江下坂
こちらも、実際にあった事件をもとにつくられた世話物狂言。伊勢の御師である福岡貢を中心に、主家の重宝である名刀「青江下坂」とその折紙(鑑定書)を巡る人間模様が描かれます。意地悪な仲居の万野たちの態度や、恋人のお紺が見せた偽の愛想尽かしに、次第に追い詰められて逆上した貢が、刀を手に次々と人を手にかける場面は、歌舞伎の様式美と迫力に満ちています。
歌舞伎沼にハマるきっかけになった作品で思い出深いです。貢が急に豹変して周りの人を次々と斬ってしまう描写に、刀がただの鉄屑ではないという妖刀の恐ろしさを感じて面白いなと思いました。(みみみぱにさん・30代)
最後の大立廻り。刀に操られふらふらと歩きながら斬って回りますが、その姿がなんとも儚げで色っぽく、ドキドキしながら観ました。(松嶋屋大好きさん・40代)
歌舞伎って、こんなにおもしろいんだ!と思った作品。華やかな総踊りの最中に巻き起こる殺人の、血の赤さ、貢の変貌ぶりにドキっとします。通し狂言では、伊勢神宮参拝のにぎやかな風情、夫婦岩の前での追っかけ合い。現代の私たちにも身近な場所が舞台となっているため、とても親しみやすい作品です。(ペンネームなしさん・20代)