桜と歌舞伎 桜と歌舞伎

 四世鶴屋南北が、「清玄桜姫」の物語と梅若伝説を巧みに融合させた人気作です。
 長谷寺の僧・清玄は、恋仲である稚児・白菊丸と心中しますが、自身だけ生き残ってしまいます。17年後、高僧となった清玄に出家の願いを聞き入れられ、剃髪を待つ吉田家の息女・桜姫のもとに現れたのは、以前屋敷に忍び込み桜姫の操を奪った釣鐘権助。思わぬ再会を喜び出家の意思が薄れた桜姫は、権助に身を委ねます。一方、桜姫が白菊丸の生まれ変わりと知った清玄は、彼女に執念を燃やし…。
 桜が描かれた美しい着物を身に纏いながら、その腕には自らの操を奪った顔も分からぬ男と同じ、釣鐘に桜の絵柄の刺青を刻んでいる桜姫。恋しさを断ち切ろうと出家を望んだ彼女は、新清水の満開の桜の下で花見をしている折に清玄と出会い、その後、偶然にも桜谷の草庵で思い人である権助に再会。そこから目まぐるしく変転していく桜姫の様子は、まさに桜のようにさまざまな魅力にあふれています。
 今月の歌舞伎座「四月大歌舞伎」では、36年ぶりに仁左衛門と玉三郎の顔合わせで『桜姫東文章』上の巻を上演。ぜひ、劇場で南北の名作をご堪能ください。

1人で歌舞伎を観に行くようになって程なく、『桜姫東文章』を観劇した。始まった途端、触れてはいけないような耽美な世界に圧倒され、幕間になっても暫く顔をあげられずに筋書きを眺めていると、ふと、桜姫が自分と同い年だと気付いて衝撃を受けた。その後はすっかり自分に重ね合わせて感情移入してしまい、涙を流しながら観ることに。何十年たってもあのときの衝撃は忘れられない。(ぎんりゅうさん・40代)

夜桜、昼桜と見る場所、見る時間によって、その魅力が変わる桜と、さまざまに姿が変わる桜姫が重なります。どちらも悩ましく、けれど美しい。(みなさん・40代)

 江戸時代に実際に起きた事件から生まれた講談を脚色して歌舞伎にした、世話狂言の縁切物の代表作。吉原一の美女である兵庫屋八ッ橋にひと目ぼれした佐野次郎左衛門が、八ツ橋に愛想尽かしをされて凶行に及ぶ、事件の一部始終が描かれます。
 この作品で注目すべき桜のみどころは、何といっても冒頭の、次郎左衛門と八ッ橋の出会いの場ではないでしょうか。桜色に染まった夕暮れの吉原仲ノ町を、しゃなりしゃなりと花魁道中で歩んでくる八ッ橋の美しさ、ちらりと見せる艶めかしい微笑み…次郎左衛門でなくても、言葉を失って見とれてしまうような、とても印象的な場面です。

吉原の桜は夢を見せてくれます。花魁道中の華やかさと笑みも相まって、舞台に釘付けとなります。最後が壮絶なだけあって、桜の儚さも感じられる演目だと思います。(ねこまるさん・40代)

序幕、客席が暗くなり、柝頭でパッと明るくなると吉原仲之町の場、舞台真ん中に満開の桜の木、まさに不夜城。その桜の木の後ろから現れた花魁八ツ橋が花道つけぎわでの次郎左衛門への微笑みの美しさ、艶やかさ、歌舞伎に魅せられた瞬間でした。桜の季節になると、「籠釣瓶」の舞台が脳裏に浮かんできます。(天丼さん・70代)

7月23日(金・祝)~7月29日(木)、シネマ歌舞伎『籠釣瓶花街酔醒』が東劇ほか全国34館で上映されます。詳細はこちらでご確認ください。

 野田秀樹の戯曲を、本人による作・演出により歌舞伎化した本作は、まさに「桜と歌舞伎」というテーマにぴったり。鬼と人が交差する幻想的なストーリー、妖しいまでに美しい満開の桜が舞台を包み込む圧倒的な世界感が、観る者の心を揺さぶります。
 4月7日(水)より、シネマ歌舞伎『野田版 桜の森の満開の下』のブルーレイ、DVDがいよいよ発売!詳しくはこちらをご覧ください。あの感動を何度でも、お手元で心ゆくまでお楽しみいただけます。

桜と歌舞伎と言えば、古典歌舞伎もたくさん思い浮かびましたが、やっぱり大好きなこの作品を挙げたいと思います。切なくて恐ろしくて、とてつもなく美しい桜の森が歌舞伎として生まれ変わったときの感動は忘れられません。耳男と夜長姫が手を繋いで花道を駆けてゆく胸躍るシーンからの耳男の慟哭--今でも脳裏に焼き付いています。「いやーまいった、まいったなぁ」(えびちゃんさん・50代)

ちょっと疲れていたときにふらりと入った映画館で、シネマ歌舞伎の同作を鑑賞しました。昔読んだ書籍の世界が鮮やかにスクリーンに広がって、夢のようでした。私にとって、歌舞伎座に行くきっかけにもなった、大好きで大切な作品です。(hanaさん・40代)

 「桜と歌舞伎」、いかがでしたでしょうか。皆様から非常に多くのご投稿をいただきましたが、紙幅の関係で、残念ながら掲載しきれなかった作品を、こちらにご紹介します。

『荒川の佐吉』
『一谷嫩軍記』
『一本刀土俵入』
『浮世柄比翼稲妻』
『加賀見山旧錦絵』
『元禄花見踊』
『再桜遇清水』
『新薄雪物語』
スーパー歌舞伎II(セカンド)『新版 オグリ』
『助六由縁江戸桜』
『ぢいさんばあさん』
『泥棒と若殿』
 新作歌舞伎『NARUTO -ナルト-』
『NINAGAWA十二夜』
超歌舞伎『今昔饗宴千本桜』
『番町皿屋敷』
『弁天娘女男白浪』

 もちろん、この他にも、桜が登場する演目はまだまだたくさんあります。改めて、ともに日本人が愛する歌舞伎と桜は、互いに切っても切れない間柄であることが感じられます。皆様も、これからご観劇の際には、ぜひ舞台をお楽しみいただきながら、お気に入りの“桜”を見つけてみてはいかがでしょうか。

 歌舞伎への愛と、舞台を観る瞬間の感動にあふれた、素晴らしいメッセージをお寄せくださいました皆様に、改めて厚く御礼申し上げます。

本ページに掲載の浮世絵は、注記のあるものを除きすべて国立国会図書館蔵です。