12月1日（水）から始まる、歌舞伎座「十二月大歌舞伎」第二部『ぢいさんばあさん』に出演の尾上菊之助が、公演に向けての思いを語りました。

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後世に伝えたい「心」を描く

　森鷗外の短編小説を原作に、劇作家の宇野信夫が作・演出を手がけ、昭和26（1951）年に初演された新歌舞伎『ぢいさんばあさん』。菊之助は伊織妻るんを初役で演じます。「はたして今の自分にできるかどうか、思い切って挑戦することにしました」と、切り出した菊之助。そんな今回の挑戦の背景には、今年6月に歌舞伎座で父・尾上菊五郎と市川左團次により上演された『夕顔棚』を見て、初めて感じた思いがあると言います。

 

　「自分が年齢を経たからでしょうか。これまではあまり魅力が分からなかったものが、“こういう情のある夫婦の形っていいな”という印象に変わりました。二人を慈しむかのような若者たちの姿も含めて、これが日本に残していきたい心なのではないか、父のような年代になったときにあのような世界が描けるような役者になりたい、と思ったんです」と、似た世界観を感じる『ぢいさんばあさん』への挑戦を決意した経緯を語ります。

 

　今回伊織を勤める中村勘九郎との共演については、「とても楽しみです」と、何度も期待を口にします。中村歌昇や尾上右近ら、自分より一つ若い世代とともに舞台をつくり上げることについても、「一緒に出るということが彼らにとってどれくらいプラスになるか分からないですけども、私は先輩とご一緒するなかで成長のきっかけをいただいたので、このような機会を与えていただけて本当にありがたいと思っています」と、真摯に語りました。

 

『ぢいさんばあさん』のあたたかな世界 

　るんについて、「37年間夫のために家を守り、もし再会できたら、家名を残すことができたこと、そして子どもを亡くしてしまった贖罪と悲しみを、旦那様に伝えなければいけないという一心で生きてきた人」と、説明。過去に2度共演した菊五郎のるんについては、「あたたかかったです。伊織と再会して、体と声はおばあさんなのですが気持ちは若返っていると感じました」と、振り返ります。「きっとかくしゃくとした武家らしいおばあさんだと思いますので、老けを意識しすぎずに、凛とした心を大事に勤められたらと思います」と、役づくりの構想を明かしました。

 

　演目の核については、「偲ぶ、慈しむ、互いを思い合う」心の部分だと分析します。「歩き方、化粧、鬘で外見は変わるものの、中身をつくっていくのは自分自身なので、そこは課題だと思います」と気を引き締めながら、るんのさまざまな言動がどれも好きだと語る伊織との再会の場面では、「心からにじみ出てしまう、思わずあふれてしまうようなうれしさが出せれば良いな」と、目標を掲げました。

 

　作中、かつての若々しい伊織とるんの姿と重なり合うように登場するのが、久弥ときくの若夫婦です。菊之助も、過去に2度きくを演じました。「家を守ろうという気概のある二人で、偉いですよね。若者が守っていかなければ伝統というものは絶えてしまうので、そういう意味でも非常に現代に対するメッセージを感じます」と、自身の境遇と重ねながら、「やはり若者が憧れる年の取り方もしないといけないんだなと思いました」と、将来を見据えます。

 

変化をポジティブに捉えたい　

　コロナ禍前後の変化について、「もっと（芝居に）出たいです」と本音をにじませながらも、「生活のリズムが変わったことで、これまでお芝居のことをずっと考えていたのが、ふっと芝居のことを考えない時間ができ、歌舞伎への向き合い方が変わったと思います。やはり（この変化を）ポジティブにとらえたいですから、舞台に出たいという思いと、（コロナ禍で感じた）少しの余裕をもって仕事に向かう心を、切り替えながら両立できたら一番いいなと思っています」と、前向きに語ります。

 

　また、長男・丑之助の今年の奮闘については「役になりきることの面白さを少しでも感じることができたらいいなと思って接していました。芝居が好きになった気がします」と、笑顔。最後に「この十二月大歌舞伎は三部ともバラエティに富んでいて、初めてご覧いただいても楽しめる演目が並んでいると思います。12月は体調を崩しやすい季節ですので、皆様十分にご留意いただいて、こういうときですが憂さを晴らしに歌舞伎座にお越しいただければと思います」と、お客様へのメッセージを述べ、締めくくりました。

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　歌舞伎座「十二月大歌舞伎」は12月1日（水）から26日（日）までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中です。