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仁左衛門、玉三郎が語る、歌舞伎座『婦系図』

仁左衛門、玉三郎が語る、歌舞伎座『婦系図』

 

 2024年10月2日(水)から始まる歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」夜の部『婦系図』に出演する片岡仁左衛門、坂東玉三郎が公演に向けての思いを語りました。

歌舞伎座で泉鏡花の名作を

 泉鏡花の名作『婦系図』は、新派の代表的な演目としてこれまで数多の名優により磨き上げられてきました。仁左衛門はこれで6度目となる早瀬主税を、玉三郎は昭和58(1983)年以来41年ぶり、2度目のお蔦を勤め、本作品では初めての共演となります。『婦系図』は二人が「『滝の白糸』や『日本橋』でも共演しており、新派にも多く客演させていただいてきた」という経緯もあり、玉三郎が提案した企画だと言います。仁左衛門は、「主税は好きなお役でして、まさかまた演じるとは思っていなかったのですが(玉三郎が)大丈夫だと後押ししてくれて、やることになりました」と、にこやかな表情を見せます。「先代そして当代の(水谷)八重子さんや(波乃)久里子さんたちとも一緒にお芝居させていただきました。新派も好きですし、今回は初めて大和屋さんのお蔦でさせていただきます」と、歌舞伎座での『婦系図』上演に向けて、期待を寄せます。

 

 玉三郎は、「松嶋屋さんとはご一緒させていただくことが多く、これからどんなことを二人でできるかを話しておりました。普段、次にやりたいと思う演目は楽屋で支度しているときや、役が終わったときにふと思いつくのですが、この『湯島境内』もそうで、(仁左衛門に)提案して数日後には話が進みました。新派の大先輩方は(主税とお蔦の別れを描く)『湯島境内』だけで上演されていることもあるので、この場面をやれないかと考えていましたが、松嶋屋さんが『本郷薬師縁日』と『柳橋柏家』もつけた方がわかりやすいのではとおっしゃられたので、このようになりました」と、演目選定の背景を話しました。

 

仁左衛門、玉三郎が語る、歌舞伎座『婦系図』

 

物語の主軸は濃厚な人間関係

 「湯島境内」で主税は、師の酒井俊蔵から「俺を棄てるか、婦を棄てるか」と迫られ、お蔦との別れを心に決めます。「主税は書生上がりですので、当時の子弟関係をしっかりと掴まえてやらせていただきます。また、今とは全然違う、当時の別れの切なさが皆様に伝われば」と、作品の眼目を述べる仁左衛門。「主税は非常にしんどい役。別れる決意をしてからも、一所懸命尽くしてくれるお蔦にいつ切り出そうかと悩む苦しさ、そしてそれを打ち明けたあとに説得するまでの苦しさがある。苦しんでいる間が一番難しく、(それを表現することが)この役の大事なところでしょうね。彼が自分の生い立ちを話すことで、先生の言うことを聞かなければいけなかった理由も、お客様に分かっていただけるのでは」と、主税という役への深い思いがにじみます。

 

 隣で聞いていた玉三郎もうなずき、「主税は多面性があり、芯が通っている」と説明します。「鏡花の作品は女性に流される男性がよく描かれていますが、主税はそうではないので、松嶋屋さんは主税のような“多面性”のあるお役がお好きなのでは」と代弁すると、玉三郎の鋭い分析に仁左衛門も「そうですね」と、微笑みながら返答。「私は単に身体と気持ちが動いていくだけで説明はできないけど、彼(玉三郎)はきちんと説明できる」と、長年築き上げた二人の関係性が垣間見える会話が繰り広げられたひと幕も。

 

 一方、お蔦を演じる玉三郎は、「(別れ話を切り出された後)『あなたより先に死ぬまで人の髪を結って暮らします』 というせりふが印象深く、しみじみとします。幸せではあまり物語にもならないのでしょうが、それでもこの二人が思う気持ち自体は幸せだったのではないかと思います。結ばれてうまくいったから幸せになれる、というよりも悲恋だから美しかった、ということもあるのでは」と、作品の魅力を述べます。「初演の際は名優のビデオを見ながら、ひたすら自分だったらどう演じるかを考えていました。年齢を重ねた今、お稽古をしても実際にやってみなければわからないところがあり、お客様が入った歌舞伎座で自分がどのぐらい対峙できるか。二人で滑らかに、精一杯勤めたいと思うだけです」と、41年ぶりにお蔦を演じるにあたり、胸の内を語ります。

 

仁左衛門、玉三郎が語る、歌舞伎座『婦系図』

 

今日まで来られたのは“縁”

 今年の歌舞伎座「四月大歌舞伎」でも『於染久松色読販』、『神田祭』で共演した仁左衛門と玉三郎。昔と比べ近年は「お互いを思いやる気持ちが強くなった」と、玉三郎は感じていると言います。「若いときはあれをしたい、これをしたいと思っていましたが、この歳になったら何ができるか、松嶋屋さんは何をやりたいとおっしゃるか、そこに沿っていく気持ちが大きいです。ですから、今回どうやってこの湯島の二人になれるか、ということに全力を尽くすしかない」と、気持ちを込めます。仁左衛門も、「今の私たちを見ておいていただきたい」と、力強く呼びかけます。

 

 長年歌舞伎ファンから愛されていることについては、「ありがたいですし、縁と言うしかないですね」と、玉三郎は感慨深げに話します。仁左衛門も、「親同士が仲良く、その息子同士も自然と仲良くなって不思議と出来上がった縁ですね。大切な存在です」と続け、和やかな雰囲気のなかでの会見となりました。 

 歌舞伎座「 錦秋十月大歌舞伎」は、10月2日(水)から26日(土)までの公演。チケットは、9月14日(土)から、チケットWeb松竹チケットホン松竹で発売予定です。

 

仁左衛門、玉三郎が語る、歌舞伎座『婦系図』

 

2024/09/09