歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



御覧いただきたいのはここ!


 「『髪結新三』は、二代目尾上松緑のおじさんが、本当にお好きな狂言でした」
 と、菊五郎さんは語り出しました。二代目松緑は、菊五郎さんの祖父六代目菊五郎の愛弟子。五代目菊五郎の初演した新三は、六代目から二代目松緑へと受け継がれました。
 「おじさんのお宅へお邪魔することがよくありましたが、雑談でもなにかというと、新三のせりふや動きを引用されました」

 菊五郎さんは二代目松緑の新三でお熊に出ています(昭和46年6月国立劇場ほか)。
 「そのときから、いつかやりたいと思い、いつもおじさんの新三を見ていました。直接ご指導していただいたことはありませんが、拝見したものと祖父のレコードなどを参考に演じています」

 新三の仕事は商店などを回る髪結いですが、一廉(ひとかど)の男としての売り出しを狙う野心家でもあります。

 白子屋の戸口で耳にした、娘のお熊と手代の忠七のやりとりから二人が恋仲と知ると、それを種にした金もうけを考える。そして、忠七の髪を整えてやりながら、親切ごかしにお熊との駆け落ちをそそのかす…。
 「耳元でぽそぽそと言う。まさに悪魔のささやきですよ」
 忠七の頭を、髪結らしくいじるところも見どころ。
 「手際は淀みなく。でも、大切なのは技を見せることではなく、後につながる話の内容です」

 まんまと二人を連れ出し、お熊を駕籠(かご)で先へやり、自分は忠七と雨の中を歩きます。永代橋に至ったところで、ついに悪党の本性を現す新三!

(平成22年5月大阪松竹座 (C)松竹株式会社)

材木問屋の白子屋は店を立て直そうと、一人娘お熊(梅枝)の縁談をまとめましたが、お熊は手代の忠七(時蔵)と恋仲で、縁談を了承しません。一部始終を見ていた髪結新三(菊五郎)は、忠七にお熊との駆け落ちをそそのかします。お熊を先に駕篭に乗せ、続く忠七と新三。ところが永代橋で新三が豹変、忠七を蹴倒してお熊を家に監禁、身代金をせしめようと企みます。面目なさに大川に身投げをしようとする忠七ですが、通りかかった侠客の弥太五郎源七(左團次)に助けられます。 源七がお熊を取り戻しにきますが、逆に新三に毒づかれ、騒ぎを白子屋に止められて失敗。そこへ家主の長兵衛(三津五郎)が出てきて、老猾な掛け合いでお熊を救い出します。数日後、源七が恨みを晴らそうと、新三を待ち伏せする閻魔堂橋。そこで出会った二人が・・・。

公演情報
七世尾上梅幸十七回忌追善
二世尾上松緑二十三回忌追善
平成23年11月1日(火)~ 25日(金)

夜の部
三、梅雨小袖昔八丈
     髪結新三
髪結新三
手代忠七
下剃勝奴
家主長兵衛
弥太五郎源七
菊五郎
時 蔵
菊之助
三津五郎
左團次
 「本当に図太いやつです。永代橋でがらっと態度を変える。そして『お熊は俺の女だ』という内容を忠七に言っているうちに、自分でもそう思い込んでくる。自信満々なわけです。どっちに転んでも金にできると思っているから、忠七なんてもうどうでもいい」


 続く長屋の「新三内」では、風呂上がりの新三がさっそうと帰ってきます。
 「もう親分気取り。気障(きざ)なんです。だから、やる方もいい男の気分でしないとね。ちょっと顔を出せば相手の方がお金を包んでくる弥太五郎源七のような顔役になりたいと思っている。こんな男が江戸の町には山ほどいたんでしょう。損しても自分の名前を売りたい。格好をつけて鰹も買う。長屋のほかのけちな連中と自分は違うんだというところを見せつけたいわけです」

 「新三内」では弥太五郎源七、「大家内」では家主長兵衛とのやりとりがあります。
 「源七とは最初から喧嘩する気でいます。思い切り辱めて落としてやろうと思っている。対して源七の方は、新三とやって得することは何もない。何をするかわからないチンピラと喧嘩して怪我でもしたらかえって損です。だから、新三はこの場では真剣に向かっていきます。対照的に大家さんにはちょっとおべっかを使ったりして、源七のときとは違う面を見せる」
 「新三は、おもしろいけれど体は疲れる役です。いつもぴんと背筋を伸ばしていなければなりませんしね」

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