歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



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復活上演のきっかけは澤瀉屋さんのひと言

 『小笠原騒動』を橋之助さんが初演されたのは、平成11年9月の南座。昭和52年7月の歌舞伎座公演から22年ぶりでした。このときの上演は橋之助さんのアイデアだったとうかがっています。
 「兄の(中村)福助が児太郎時代に『玉藻前化生輝裳(たまものまえけしょうのはれぎぬ)』(昭和60年3月南座)を、澤瀉屋のおにいさん(市川猿之助)らの演出で上演しました。僕も出演していて、にいさんとご飯を食べる機会があった。そのときに“もう少し大きくなったら『小笠原騒動』をやったらいい”と言われたんです。それがずっと頭にあり、(中村)翫雀さん、(中村)扇雀さん、(市川)染五郎さんと南座で芝居をと言われたときに思いつきました。そうしたらとんとん拍子に話が進みました」

 この芝居は大名の小笠原家のお家騒動が題材。お家乗っ取りを図る執権の犬神兵部と愛人で殿様の側室のお大、陰謀を阻もうとする善人方の小笠原隼人、忠義者の小平次と女房のお早らの闘いが軸になります。このストーリーの面白さと早替りや激しい立廻りが話題になり、大入りを記録しました。
 「お蔭さまで初演が好評で、その後、新橋演舞場、御園座、博多座と全国の劇場を回ることができました。平成21年5月には南座で今度は(片岡)愛之助、(中村)勘太郎(現勘九郎)、(中村)七之助という若い人たちのなかに入れてもらい、上演することができました」

 そして、いよいよ平成中村座に登場です。
 「平成中村座が半年間公演されることになり、(中村)勘三郎の兄から、4月公演で昼の部は『法界坊』を上演するけれど、夜の部で何かやってくれないかと言われました。それなら久々に『小笠原騒動』をと思い立ったわけです。甥の勘九郎は『小笠原騒動』の大ファンで、初演から一番前の席に座って何回も見てくれていたくらいなんです。ですから4月の出演も楽しみにしてくれています」

大立廻り、本水、早替り… 楽しい仕掛けがいっぱい

『通し狂言 小笠原騒動(おがさわらそうどう)』は、こんなお芝居

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平成21年5月京都四條南座(撮影:松竹株式会社)

 九州・豊前国の小笠原家では、執権・犬神兵部(ひょうぶ)が、わが子を宿したお大の方を側室に送り込み、お家乗っ取りを企んでいました。ある日、禁猟地へ狩りに出た藩主・小笠原豊前守(ぶぜんのかみ)は、白狐をねらうのを忠臣・小笠原隼人(はいと)に止められ、諫言されます。豊前守の怒りをかった隼人は閉門を言い渡され、さらに兵部が差し向けた刺客に狙われますが、先ほどの白狐の化身・奴菊平に窮地を救われます。
 兵部の企みに気づいた隼人は、分家の小笠原遠江守(とおとうみのかみ)への密書を、もと召使のお早に託します。ところが、お早は兵部に加担する足軽の岡田良助に殺され、密書は奪われます。そこへ通りかかったのが、お早の夫・飛脚の小平次。良助の片袖を手に入れた小平次は、妻の敵を悟るのでした。
 一方、良助が帰宅すると、お早の怨霊のために一家が苦しんでいることを女房のおかのが訴えますが、良助は、ならば離縁すると言うばかり。しかしそれは、自分の罪を悔やみ、兵部の悪事を暴く決意を固めた良助の、家族に罪が及ばないようにという思いやりでした。
 良助は盗み出した兵部一味の連判状と訴状を持って、遠江守へ直訴に向かいますが、途中、水車小屋で小平次に討たれてしまいます。連判状と訴状は、良助の改心を聞いた小平次に託されました。
 小平次は遠江守の行列に直訴。旧知の林数馬がこれをとりなしますが、遠江守が狙撃され、万事休す。ところが…

 四幕目「柳ヶ浦街道筋の場」では、その勘九郎さんの演じる小平次が、激しい立廻りを繰り広げます。水に飛び込んだり、大きな水車でぐるぐると回ったりする面白い場面です。
 「この場はかなり体力を必要とします。資料が残っていなかったので初演では、一から考えました。水車の立廻りは、実は僕の家のベランダでできたんですよ。小さなビニールプールと小さな家を置き、まだ幼稚園児だった長男の国生と二男の宗生を遊ばせてみた。二人とも遊んでいるうちに必死になり、水をバシャバシャとやったり、家の屋根から滑り降りたりする。そこからヒントを得ました」

 豊前守が狩りで殺そうとした狐を、隼人が助ける。その狐が善人方の隼人たちの危難を救います。歌舞伎には『葛の葉』の狐葛の葉や『義経千本桜 川連法眼館』の狐忠信などのように動物が人間に化け、人助けをする作品が多くあります。
 「動物の活躍するものってメルヘンの要素がありますよね。こういうことが起きるといいなという、人の心のツボを押さえていると思います。もともとの『小笠原騒動』はもっと長編なんですよ。現在上演しているのは、岡田良助が中心のバージョンですが、小笠原隼人のバージョンもできると思う。蟄居(ちっきょ)している隼人を狐が助け出すんです。いつかやったら面白いだろうなと考えています」

※澤瀉屋の「瀉」のつくりは正しくは“わかんむり”です。

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