歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



御覧いただきたいのはここ!


記憶のなかにあるあの『ヤマトタケル』の熱

 初代市川猿翁、三代目市川段四郎五十回忌追善、二代目市川猿翁、四代目市川猿之助、九代目市川中車襲名披露と五代目市川團子初舞台の披露興行が6、7月に新橋演舞場で行われます。6月公演の夜の部、7月公演の昼の部で上演されるのが『ヤマトタケル』。梅原猛作のスーパー歌舞伎第一弾で、平成20年6月の中日劇場以来の上演となります。新 猿之助さんは小碓命(おうすのみこと)後にヤマトタケルと、大碓命(おおうすのみこと)を初めて演じられます。
  「(三代目)猿之助が新しい世界を切り開いていった象徴として、『ヤマトタケル』は襲名披露で絶対にやらせて欲しいとお願いしました。古典歌舞伎とスーパー歌舞伎の両方を一つの興行で上演したことは、これまでにないので、まず大道具さんの作業が非常に大変だろうと思います」

 この作品からスーパー歌舞伎がスタートしました。
 「昭和61年2、3月の新橋演舞場での初演から、20年以上たちました。僕はもう古典であるととらえています。初演の頃、猿之助一門では『義経千本桜』と『ヤマトタケル』を頻繁に上演していましたから、小学生当時の僕には一番親しみがある作品です。例えて言えば、市川宗家の成田屋さんにとっての歌舞伎十八番『勧進帳』のようなものです」
 「僕は小学四年生でしたが、新しいものが生まれたと思いました。衝撃でした。みんなで一丸となってやってみようという、つくる側の雰囲気も伝わってきました。初日、学校帰りに客席へ行ったら、最後のカーテンコールでは、客席も沸いている…。それが、今、生まれてきたものに対する拍手のように感じられました。子どもですから、ただただ“すごいな”と思いました。そして、今もって“すごいな”と感じ続けています」


『ヤマトタケル』は、こんなお芝居

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写真:渞 忠之

 日本がまだ国家として成立する以前のこと。謀反を企む双子の兄、大碓命(おおうすのみこと)と口論の末、兄を誤って手に掛けた小碓命(おうすのみこと)は、父の帝(すめらみこと)の怒りを買い、大和に従わない熊襲(くまそ)の征伐に行かされます。大碓命の妻、兄橘姫(えたちばなひめ)は、夫の仇として小碓命を襲いますが、清らかで優しい心に触れ、小碓命を慕うようになります。熊襲を訪れた小碓命は踊り女に変装し、熊襲の首領タケル兄弟を殺害。弟タケルは死に際に、小碓命の勇気を称えてヤマトタケルの名を与えます。
 熊襲を征服し、大和の国に帰ったヤマトタケル。しかし、帝の許しは得られず、今度は蝦夷征伐の命を受けます。吉備の大君タケヒコを伴っての蝦夷征伐は苦戦が続き、走水(はしりみず)では同行していた弟橘姫(おとたちばなひめ)まで失いました。
 蝦夷を平定しての帰路、タケルは尾張の国造の娘、みやず姫に傷心を慰められますが、帝からは伊吹山の山神退治の命が来ます。やっとの思いで神々を倒したものの、深手を負ったタケルは、大和を夢に見、帝や兄橘姫、息子ワカタケルを思いながら死んでゆきます。時は移り、ワカタケルがひつぎの皇子となるとの知らせが墓前にもたらされ、ヤマトタケルの魂は白い鳥となって天に昇っていくのでした。

梅原猛はやっぱりすごい!

 この作品の魅力はどこにあると思いますか。
 「僕は梅原教の信者といってもいいぐらいに梅原先生を尊敬し、全作品を読んでいます。やはり本がよくできていておもしろい。とにかく、梅原猛はすごい! そこに尽きます」
 「そして装置、照明、音楽、衣裳と当時の英知が結集している。ことに素敵なのが敵役たちです。熊襲兄タケル、熊襲弟タケルの兄弟、相模の国造のヤイラム、ヤイレポ兄弟、伊吹山の山神、姥神…。だからタケルは周りから助けてもらい、周りが深めていってくれる役です」


 原作者であるその梅原猛さんからは、何かご意見がありましたか?
 「梅原先生は<第八回亀治郎の会>(平成22年8月国立劇場)の『上州土産百両首』を見てくださいました。そのときに“猿之助は太陽の演出家だけれど、亀治郎は月の繊細さだ。あんたは月の演出家やな”と言われました。月というと太陽の光を受けてしか輝けないようなイメージがありますが、実は月のほうにこそ人間を狂わせる力があって、満月の日は何かが起こるから月のほうが妖しいんです。月には裏表があるが、太陽には裏がない。だから僕には裏があるんです!」
 「先生は、僕のヤマトタケルは三代目猿之助と違うところが出るだろう、非常に孤独の哀しみが出るだろう、寂しさの強いヤマトタケルになるだろうと書いてくださいました。多分そうなると思います」


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