歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



御覧いただきたいのはここ!


踊りで見せる“戦物語”の難しさ

 又五郎さんは「七月大歌舞伎」で、佐藤忠信実は源九郎狐と静御前が道行をする『吉野山』を踊られます。名作『義経千本桜』のなかの人気舞踊です。源九郎狐は、やはり義経旗下の兄継信を源平の合戦で失った弟として振る舞っています。気を遣われるのはどんなところでしょう。
  「継信の最期の様子を“物語”で見せるところです。清元と義太夫の掛合いになるのですが、音楽に応じての踊り分けが難しい。義太夫では荒々しさ、清元では柔らかみのある振りができればいいなと思います。それと、戦の様子を見せる“物語”ですから、内容がわからないといけない。そこですね」

 平家の侍大将、悪七兵衛景清と三保谷(みおのや)四郎が兜の錣(しころ)を引き合う様子や、能登守教経が源義経を狙う矢の前に継信が立ちふさがって犠牲となる件(くだり)を動きで見せますね。
 「景清、三保谷、継信など異なった人物を表現しなければいけないので、その変わり身が難しい。かといって、芝居のように義太夫に乗ってしゃべるわけではない。そこが一番の勉強のしどころです」

『道行初音旅 吉野山』は、こんな作品

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(C)松竹株式会社

 源頼朝との不仲により都を離れた義経を追い、愛妾の静御前は桜満開の吉野山へ分け入っていきます。いつの間にか、同道していた義経の家来、佐藤忠信の姿を見失った静は、義経から預かった初音の鼓を打って忠信を呼んでみました。すると、どこからともなく忠信が現れ、二人で着長(きせなが)の上に鼓を乗せて義経に見立てると、静に乞われるまま、忠信は屋島の合戦の様子を物語ります。が、この忠信は実は、鼓の皮に張られた親狐を慕う子狐の化身でした。物語が終わる頃、頼朝方の早見藤太が現れて鼓を奪い取ろうとしますが、これを難なく追い払った忠信。静は再び忠信を供にして義経を追い、川連法眼館へと向かうのでした。

狐手や狐の振り、細かい表現も見逃せない

 『吉野山』の忠信にはどんなイメージをお持ちですか。
 「『義経千本桜』という長い作品に登場するのは、立役にとって魅力的な役ばかりです。忠信は平知盛やいがみの権太と同様に芯になる役でもありますし、独立した『吉野山』という舞踊の主役でもある」
 「また、忠信と静御前は主従です。芸談などを拝読すると『仮名手本忠臣蔵』の『落人』を踊るおかる勘平とは異なり、“道行”とはいえど、好き合う男女ではない。ですが、曲が清元なので色気も必要です。武将ですから、武張ったところも表現しなければなりません。そういうことも頭に置きながら踊らせていただければいいのかなと思います」


 狐というのを、どこで表現されますか。先に登場した静御前が舞台で鼓を打つと、花道のすっぽんから忠信がせり上がる。そのときには、首を左右に狐らしく振りますね。
 「一番お客様にご理解いただけるのは、狐手(指を3本だけを前に出し、親指と小指を見えないようにする)ではないでしょうか。六代目(尾上)菊五郎さんは小指が真横に折れたとうかがったことがあります。私はとてもそうはならないので、『四の切(川連法眼館)』でも指2本を無理やり押し込んでいます」
 「それと引っ込みのとき。ポポポポと揚幕で“呼鼓”が鳴ると、両親の狐がその鼓の皮に使われているので、反応して狐の振りで花道まで来ます」


 忠信の衣裳は2通りありますね。
 「僕は、六代目さんがなさっていた(九世市川)團十郎型の茄子紺の無地の衣裳で、(化粧の)隈は取りません。“物語”で肌を脱ぐと、銀の源氏車が飛んだ浅葱(あさぎ)の襦袢になります。鬘もふかし鬢(びん)で、車鬢よりも柔らかい感じになります。教えていただいた先代藤間勘祖先生のご指導で初演から変わらず、その姿で演じております」

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