歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



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憧れの役、偉大なる先人の役

 この作品の上演は長く途絶えていました。復活されたのは昭和34(1959)年11月の歌舞伎座。三島由紀夫監修、巌谷槇一補綴で桜姫は六世中村歌右衛門でした。
 「大叔父の歌右衛門から作品について聞いたことはありません。その後に郡司正勝先生の補綴で京屋のおじさん(中村雀右衛門)がなさり、玉三郎のおにいさんが、(市川)團十郎のおにいさん、(片岡)仁左衛門のおにいさんの清玄、権助で繰り返しなさって当り役にされました。皆さんがとても大事にしていらした作品です。私にとっては憧れの役で、串田先生の演出版に続き、郡司先生の補綴版でできるのは本当にうれしいです」

 初演は文化14(1817)年。桜姫は五世岩井半四郎、清玄と権助は七世市川團十郎でした。五世半四郎は悪婆物を得意とした名女方です。
 「どんな本にも女方の手本として出てくるような方で、私も目標にしている偉大な先人です。『桜姫東文章』は年下の七世團十郎とのコンビで上演した芝居ですが、半四郎と團十郎の年齢差は、私と海老蔵さんの年齢差とほぼ同じぐらいではないでしょうか」

八月花形歌舞伎

平成24年8月4日(土)~
23日(木)
公演情報

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(C)松竹株式会社

昼の部
『桜姫東文章』

白菊丸/桜姫 福 助
清玄/稲野屋半兵衛 愛之助
粟津七郎 右 近
葛飾のお十 笑 也
吉田松若 児太郎
奴軍助 弘太郎
端女お咲 歌 江
入間悪五郎 亀 蔵
残月 市 蔵
長浦 萬次郎
釣鐘権助/大友常陸之助頼国 海老蔵

南北作品の魅力が横溢

 南北の作品ではほかに『お染の七役』や『浮世柄比翼稲妻(稲妻草紙)』『新世紀累化粧鏡(いまようかさねけしょうのすがたみ、阿国御前化粧鏡)』『杜若艶色紫(かきつばたいろもえどぞめ)』もなさっています。演じられて、南北のどこに魅力を感じられますか。
 「勧善懲悪ではない、何もかも正義が勝つのではないところでしょうか。悪人は往々にして悪いままに終わってしまう。『お染の七役』の鬼門の喜兵衛も、『稲妻草紙』の不破伴左衛門もそうです。悪の魅力を書かれるのがお上手ですよね。現代の精神的なものに通じるところがあるんじゃないですか。ストーカー、衝動殺人、それにDV…。一歩間違えば、人間はこうなってしまう、というね」

 ほかに、南北の魅力を感じるところを挙げるとするといかがでしょう。
 「特に南北の書く女性が好きですね。『桜姫』なら、江戸の皆さんは、深窓のお姫様が落ちていってしまうのを哀れに思い、あるいは“何だ、お姫様だって我々と同じじゃないか”と思ったりされたのではないでしょうか。その意味では、清玄もそうです。元は高僧でしょ。どんなに偉い人でも人間だから、迷うこともある。お局の長浦と僧の残月の二人もしかり。どんどん落ちて行き、裸同然で追い出される。そこがうまく書けています」

 本当に桜姫は、これでもかというくらいに落ちていきますね。
 「エリザベート、マリー・アントワネット、楊貴妃…。手の届かない人がひどい目に遭ったり、落ちていく。それが舞台の題材になるところに、民衆の視点を感じます。『桜姫』の場合は当時、お姫様が傾城になったという噂があったんですよね。江戸の作者はニュースをすかさず題材にする。南北も、河竹黙阿弥も近松門左衛門もそうです。その発想が素晴らしいと思います」

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