歌舞伎いろは

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御覧いただきたいのはここ!


かわいらしいお三輪を

 今回の公演では『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』の四段目から「三笠山御殿」が上演されます。「三笠山御殿」のお三輪は、苧環(おだまき)の糸を頼りに恋しい求女を追って、蘇我の御殿にやってくるところから登場します。お三輪は初役ですね。
 「正月にル テアトル銀座で玉三郎のおじ様のお三輪を拝見し、素晴らしいなあと思ったのですが、まさかこんなに早く自分がする機会が来るとは思ってもいませんでした。子どものころ、この芝居を見て、お化け屋敷のように怖い感じがしたのを覚えています。豆腐買から官女、鱶七に至るまで、出てくる人、出てくる人、みんな不気味でしょ。お三輪も自分が御殿に入っていいものかどうか、ためらうくらい…」

 ここに登場する主な3人は、杉酒屋の娘お三輪と恋仲の求女、その求女の元へ夜ごと通う橘姫ですが、『妹背山』は大化の改新をモチーフにしているので、実は求女は藤原鎌足の息子、橘姫は鎌足が滅ぼそうとしている入鹿の妹という設定です。
 「すごいのは、すべてがお三輪の目線で描かれているところです。豆腐買にしろ、官女にしろ、お三輪とは話が全然通じない。お三輪も見知らぬ場所に来てパニックになっているので、相手の言うことがわからない。その孤独感、不安感がうまく表現されている。ですから、お三輪がかわいく見えればいいのではないかと思います」

 お三輪が苧環を持って出る姿もかわいらしく見えます。
 「実は苧環の回し方を稽古したことがあるんです。『磯異人館』(平成19年8月歌舞伎座)で琉球王女瑠璃の役をしたときに、苧環を手に登場する場面がありました。舞台で回しはしないのですが、裏で稽古をしていました。回すにはコツがあるんですよ」

お三輪の変化と死に際の気持ち

『妹背山婦女庭訓』「三笠山御殿」は、こんなお芝居

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平成24年9月大阪松竹座
(C)松竹株式会社

三笠山にある蘇我入鹿の御殿へ、入鹿の妹の橘姫が帰ってきます。姫の着物の袖についた赤い糸を手繰ってみると、現れたのは恋人の烏帽子折求女。その正体が兄と敵対する藤原淡海と察した橘姫は、添えない身ならばと求女の手にかかる覚悟を見せますが、求女は味方をするなら夫婦になろうと言い、橘姫は求女に従うことを誓って別れていきます。
入れ違いに現れたのは、酒屋の一人娘お三輪。愛しい求女の着物につけた苧環の白い糸が切れてしまい、その行方を通りがかりの豆腐買に尋ねたところ、今宵、姫と祝言を挙げるはずとの話。驚いて御殿へ探しに入ろうとするお三輪を、意地悪な官女たちがいたぶり、追い帰します。そこへ聞こえてきた祝言の祝いの声。嫉妬に狂ったお三輪は、すさまじい形相で再び御殿へ押し入ろうとしますが、鱶七に刺されてしまいます。
鱶七は求女の素性を告げたうえで、“疑着の相”となった女の生き血があれば、入鹿を滅ぼすことにつながり、求女の手柄になると語りました。そして鱶七自身も、淡海の父である藤原鎌足の家臣金輪五郎今国と明かし、お三輪の生き血を笛に注ぎました。お三輪は自分が求女の役に立つと聞きつつ、苧環を抱いて息絶えるのでした。

 いじめの官女と呼ばれる立役から入った怖い官女たちに、お三輪はさんざんな目に遭わされます。
 「内祝言での酌取りの仕方を教えてやろうと言われる。それができないと内祝言は見せてもらえないという。自分は無知だから、教わらないといけないとお三輪は思っている。一方で、なぜこんなことをされなくてはいけないんだろうとも思う。『馬士の唄』を歌えと官女に言われるのもかわいそうです。また、かわいそうだと思わせるお三輪にならないといけない。そこが難しい。いろんな魅力がふんだんに入っている芝居だと思います」

 求女と橘姫の祝言のざわめきを耳にし、「あれを聞いては」とお三輪の形相が変わります。
 「そこでお三輪の様子が、がらっと変わる方と徐々に変わっていく方がいらっしゃいます。内面から別な人格が出てくる場合と、女性の根本の怒りが出てくる場合。そこをどうしたらいいのか、教えていただく玉三郎のおじさんによくおうかがいして勤めたいと思います」

 鱶七の言うところの“疑着の相”になるわけですが、それを理由にお三輪は命を奪われてしまいます。
 「刺された後に鱶七から、求女は藤原淡海であると聞かされる。そんなことを何も知らないお三輪が、藤原氏と蘇我氏の争いに巻き込まれ、鱶七の説明で納得して死んでいく。その人のためになったといううれしさになるのか、哀れさになるのか…。なさる方によって違うところですよね」

ようこそ歌舞伎へ

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