歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



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古典作品をきちっとやるのは僕らの責任

 『妹背山婦女庭訓』の出演自体も初めてですね。同じ近松半二物では、『本朝廿四孝』の「十種香」の八重垣姫を、平成中村座で今年の5月になさっています。
 「『妹背山』では、お三輪のような一般庶民にまで、上の人たちのことが影響してしまう悲劇が描かれています。江戸の人たちには、お上への反骨精神があったのではないでしょうか。『仮名手本忠臣蔵』もそうだと思います。でも、『吉野川』は別として『妹背山』のほかの場面はほとんど上演されません。僕たち歌舞伎俳優がいい芝居だと思っても、お客様がわかりにくいと感じられる場合があるからでしょうね」

 何かを演じられたときに、そう実感されたのでしょうか。
 「はい、『十種香』でそれを感じました。舞台にいるのは八重垣姫、勝頼、濡衣の3人だけで、せりふも少ない。義太夫さんの語っていることを俳優が当てぶりでやっている、というのが、初めて歌舞伎を見る方にはつかめないらしいんです」
 「わかりづらい芝居を上演しなくても、歌舞伎は存続するとは思いますが、それだけではすごくつまらないものになってしまう。先人が受け継いできた古典作品をきちっとやっていくのは、僕らの責任です。昔は“古典を勉強して新しいものに挑戦します”と自分でやったこともないのに言っていましたが、最近本当にそう思います。古典の難しさがわかるようになったからです」


中村勘太郎改め 六代目中村勘九郎襲名披露 大阪松竹座 九月大歌舞伎

平成24年9月1日(土)~25日(火)
公演情報
昼の部
『妹背山婦女庭訓』「三笠山御殿」

杉酒屋娘お三輪 七之助
入鹿妹橘姫 壱太郎
烏帽子折求女
実は藤原淡海
新 悟
豆腐買おむら 翫 雀
漁師鱶七
実は金輪五郎今国
橋之助

歌舞伎に出てくる女の人って…

 難しさがわかって、芝居への取り組み方も変わったりしたのでしょうか。
 「たとえば、八重垣姫のときは節制した日々を送りました。楽屋ではいつも正座で、ほかの人たちが面白い話をしていても加わらない。とにかく格調高く…。そうしないと、ずっと部屋に閉じこもり、死んだはずの婚約者の絵に話しかけている人の気持ちがわからない。過去で一番自分をストイックな状況に置きました」

 今回のお三輪でもそうなさいますか。
 「お三輪はちょっと八重垣姫とは違います。ストレートなよくある歌舞伎の女方です。その気持ちが出ればいい。でも、本当にこんな人がいたら怖いと思いますね。というか、歌舞伎の女の人ってみんな怖い!」

 どのあたりが、怖いところなのでしょう。
 「『野崎村』のお光も、お染もそうですが、まっすぐです。普段、抑えられているせいか、感情が爆発すると歯止めがきかない。八重垣姫も死んだと思っているにもかかわらず、ずっと勝頼を拝んでいる。不気味です。普通に頭で考えたら怖い人ばかりですが、それを雰囲気や話の流れで、切なく見せたり、面白く見せたりする。それはないだろう、と思ったらできません」

 お三輪はお父様も演じられていますが(昭和61年12月歌舞伎座)、お役を演じられるとき、お父様以外ではどんな方に教わられることが多いですか。
 「玉三郎のおじ様や福助の叔父に習うことが多いです。最近ですと、玉三郎のおじ様には『お染の七役』、福助の叔父には八重垣姫を教えてもらいました。2人とも物知りで、ストイック。女方として見習わなければいけないことが多いです。共通するのは、気持ちを大事にと言われること」
 「玉三郎のおじ様は、いつもお稽古の前に、“この人は…”と人物像を説明してくださる。それが面白い。そこからテクニックやせりふ回しを教えてくださいます」

ようこそ歌舞伎へ

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