歌舞伎いろは

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御覧いただきたいのはここ!


踊りに頼らず芝居で表現する“しゃべり”

 『八重桐廓噺』は『嫗山姥(こもちやまんば)』の二段目に当たるお話で、実在の女方をモデルにした八重桐は、元傾城で現在は恋文の代筆を生業としている女性。花道から、紙衣(かみこ)を着て風呂敷包みを背負って登場します。
 「そこへ自分の知っている歌が聞こえてくる――。塀外では代筆の仕事について述べ、八重桐がどういう役なのかをお客様にわかっていただきます。元が傾城ですので、色気もあります。兼冬館には、自分の知っている歌を歌っているのは誰だろう、もしかして自分の恋人ではないかと思って入っていく。そして源七、つまり夫であった坂田時行と確認するわけです」

 紙衣姿の文売りが珍しく、館の人たちが話を聞きたがります。
 「八重桐は請われるままに、廓での自身の恋話を聞かせます。“しゃべり”といわれる場面です。話の内容は、男を張り合う傾城同士の争いです。源七はその間、奥に引っ込んでいることが多いですが、本来は柴垣の所に隠れているという設定です。八重桐が話の中で源七に焼きもちを焼くところでは、風呂敷包みを投げつけたり、三味線を放ったりします」

 その“しゃべり”については、なさる方によってかなり違うそうですね。
 「私の家のやり方ですと、せりふで言わず、義太夫に語らせる部分が多いです。糸(義太夫)に乗ることが必要ですが、かといって踊りに頼ってはいけない。そうすると形で処理することになってしまいますから、ここはあくまで芝居の表現力でやるべきです。先輩俳優が、“踊れないやつに限って踊る”とおっしゃっていました」
 「もちろん形は大事で、決まるところは決めなければなりませんが、“しゃべり”には内面的な要素が多分にあり、また、そこが重要です。何度か演じている間に、踊りに頼らず、芝居として表現できるようになってきます。私もまだ完璧ではありませんが…」

男の血が入った女を表現

『八重桐廓噺』は、こんなお芝居

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平成20年11月歌舞伎座
(C)松竹株式会社

岩倉大納言の息女沢瀉姫は、右大将清原高藤との婚姻を嫌がり、腰元お歌は館へやってきた煙草屋源七に、姫の気晴らしにと莨(たばこ)の言い立てを所望します。源七が言い立てを始めると、高藤の家臣太田十郎が邪魔に入ったので、立て続けに莨を吸わせてこれを追い払いました。源七は再び所望に応じ、今度は唄を唄い出します。それを聞きとめたのが、元は傾城で今は傾城の恋文の代筆をしている荻野屋八重桐。「傾城の祐筆」という八重桐の売り声がお歌の耳に入り、館に招き入れられましたが、その顔を見て驚いたのは源七。源七こそ八重桐の夫だった坂田蔵人時行でした。
姫の所望で八重桐は傾城だった頃、一人の客を巡って大喧嘩をした話をします。話し終わった八重桐は、親の仇討のための離縁だったのに自分への当てつけ話をしたと、蔵人になじられます。しかし、仇は蔵人の妹、白菊が討ったと告げると、蔵人は自分の不甲斐なさを恥じて切腹、自身の臓腑を八重桐の口に含ませて息絶えました。蔵人の魂が宿った八重桐は大力無双の体となり、姫を奪いに来た太田十郎たちを蹴散らすのでした。

 その後に源七が登場し、八重桐は源七が探している敵を妹の白菊が討ったと話します。
 「それを聞いた源七は自らを恥じて腹を突き、その生血を飲んで八重桐は身ごもります。生まれた子が金太郎、つまり源頼光四天王の坂田金時になる。生血を飲んだ八重桐の中に源七が入ると男の部分と女の部分、つまり源七と八重桐の両面が出てきます。せりふでもそこは使い分けます」

 源七の血が入ったことで、八重桐は超人的な力を得て桜の枝を持って立廻りをします。
 「その前に白菊が槍で立廻りをしますので、白菊と八重桐の対比がよく出ます。白菊の立廻りには、八重桐がぶっ返りをする拵えをするため、間をつなぐ意味もあります。また、八重桐の立廻りには義太夫が入っていますから、ここも義太夫に乗って動かなければなりません」

 先ほど、男の部分と女の部分をせりふで使い分けるとおっしゃいましたが、動きとしてはいかがでしょうか。
 「超人的なパワーはあっても、あくまでも女性です。手水鉢(ちょうずばち)を担ぎ上げて投げる振りがありますが、本当に重いものを必死に上げているという表現をします。祖父(三世中村時蔵)のときは、舞台が普通の屋体でしたが、以前になさった神谷町のおじさん(中村芝翫)が、高二重のほうが派手でいいよ、とおっしゃったので、私は高二重でやっています」

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