歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



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家の芸として演じたかった八重桐

 八重桐は、時蔵さんのお家にとって、とてもご縁の深い役です。
 「祖父が大正5(1916)年に三代目時蔵を襲名した際に演じ、父も昭和35(1960)年の四代目時蔵襲名で勤め、私の家の芸になっております。祖父にも当り役はいろいろございますが、『女暫』や『紅葉狩』、『重の井子別れ』を“家の芸”という訳にもいきませんでしょう。家の芸とはっきりいえるのは、この『嫗山姥』ぐらいです」

 時蔵さんの初演は平成5(1993)年正月の浅草公会堂ですね。
 「父が亡くなり、ご縁が切れていましたが、昭和46(1971)年に勉強会の<杉の子会>で従兄の歌六が演じ、私も白菊に出ました。その頃から、いつかやってみたいと思っておりました。女方は、主と従だと従の役が多い。また、女方が主役の芝居ですと『伽羅先代萩』や『鏡山』のように大曲になる。『嫗山姥』は女方ができる数少ない狂言の一つです。初演の際には祖父の代からの弟子で、祖父の演じ方をよく覚えている時蝶に教わりました」

中村勘太郎改め 六代目中村勘九郎襲名披露 御園座 第四十八回 吉例顔見世

平成24年10月2日(火)~
26日(金)
公演情報

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昼の部
『八重桐廓噺』嫗山姥

荻野屋八重桐 時 蔵
太田十郎 彌十郎
白菊 梅 枝
沢瀉姫 新 悟
腰元お歌 亀 蔵
煙草屋源七
実は坂田蔵人時行
扇 雀

父のせりふのとおりに演じる

 お家の大切な役を数を重ねて演じられるとき、いろいろ変えられたりすることもあるのでしょうか。
 「同じ芝居を25日間やっていると、納得のいかないところが出てくるものです。三味線との息の合い方もありますし、相手役との間合いもあります。公演中に直すことも、稽古の最中に変えることもありますし、宿題のように次回の課題として持ち越すこともあります」
 「20代、30代、40代と年齢に応じて、同じ役者の芝居でもお客様のご覧になった印象は変わるかと思います。だからこそ、歌舞伎は同じ演目を同じ役者がやっていても、見る度に発見が出てくるわけです。それが歌舞伎の面白さだと思います」


 今度で八重桐は4回目になります。特に何かお考えになっていることはおありですか。
 「前回演じた(平成20年11月歌舞伎座)のが祖父の五十回忌でした。その公演の際に、父の襲名した舞台(昭和35年4月歌舞伎座)の録音が出てまいりました。聴いてみると、私が現在上演しているものと、せりふや言い回しの違う箇所がある。前回公演中には間に合わなかったのですが、今回は父の演じていたとおりのせりふにしてみようかと思っております」

登場と同時に役柄がわかるように

 お芝居をされるにあたり、時蔵さんが心がけていらっしゃることはどういったことでしょうか。
 「どの芝居でもそうですが、役のバックボーンや、どういう役なのかが出てきただけでわかるように注意しております。たとえば『傾城反魂香』のおとく。皆さんおしゃべりだとおっしゃいますが、彼女は好きでしゃべっているのではない。自分の亭主がしゃべってくれないから仕方がなくなんです。それがないとただの出しゃばりな女房に見えてしまいます」

 確かに、しゃべりが一つの見せ場になっている点では、おとくも八重桐と同じですが、役の背景は大きく違います。
 「又平とおとくの夫婦は花道から登場しますが、その前にお百姓とすれ違い、弟弟子の修理之助が師匠の将監から名前を許されたことを聞いているのです。だから、将監の家に行きたくないくらい足取りは重い。ところが、はっと気づいたら目の前に将監の家がある…。役のバックボーンというのはそういうことです。それに比べれば、八重桐は花道から出てくる時点では、恋人の源七がいることも知らない。その時点では気持ちは暗くないわけです」

ようこそ歌舞伎へ

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