『新八犬伝』は滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」を原作に、大胆に書き換えた新作です。
　「初演（平成14年8月シアター・ドラマシティ）は花道のない劇場で、抽象的な舞台でしたが、今度は大阪松竹座という花道がある劇場で、大きな道具を組んで上演できます。初演は台本にも改善すべき点がたくさんありました。難しいせりふをたくさん使っていましたし、字面ではわかっても、耳で聞くお客様にはわかりづらい部分もあったかと思います。それを洗い直し、人物関係をわかりやすくし、それぞれの役も掘り下げました」

　愛之助さんは魔界の王となった崇徳院、彼が乗り移った関東管領の扇谷定正、定正が変装した網干左母次郎と、八犬士の一人の犬飼現八の4役をなさいます。
　「初演でも同じ4役を勤めましたが、定正のような大敵（おおがたき）で座頭的な役は初めてでしたので、何が何だかわからず、とにかく全力で突っ走りました。楽しむ余裕はありませんでした。今回は全体を見直して楽しみながらつくり、楽しみながらお芝居をしたいです」
　「崇徳院では宙乗りもいたします。崇徳院のような怨霊を演じるときのコツは、できるだけ動かないことです。動くと小さく見えてしまう。でも動かないですべてを表すのは難しいんですよ」

　定正は天下を狙う大悪党ですが、左母次郎に変装したり、犬塚信乃の許嫁の濱路や犬坂毛野の化けている傾城旦開野を追い回したり、いろいろな面を見せますね。
　「人間ってそうじゃないですか。怖い顔をしている人が突然他人に甘えたりもする。常に偉そうにしている人っていないでしょう。悪人にもどこかでふっと抜ける瞬間があり、人間っぽさがあるはずです。ただ単なる悪い人ではなく、人間味を描きたい。八犬士の一人である犬飼現八は正義の塊。武張った感じでいたします」

平成14年8月シアター・ドラマシティ （C）飯村 隆 『新八犬伝』 魔界の王崇徳院は管領扇谷定正に乗り移り、将軍の忠臣の子、伏姫と里見義成を犬の姿に変えてしまいます。自害しようとする伏姫の体から、八つの光る玉が飛び出していきました。 崇徳院はさらに浪人網干左母次郎に姿を変え、今度は天下の宝剣村雨丸をねらいます。左母次郎により、将軍家へ偽物の村雨丸を献上するはめになった犬塚信乃。その信乃が持つ水晶玉に引かれるように、八行の因縁のある玉を持つ八犬士が一人、二人と集まってきました。ついに本性を顕した崇徳院と八犬士たちの戦いが始まります。 『GOEMON』 明智光秀の家臣四王天但馬守の娘石田局は、父の仇討ちの機会をうかがっていましたが、カルデロン神父の熱心な教えが憎しみを忘れさせ、いつしか二人の間には友市という息子が誕生しました。しかし、友市もまた秀吉により両親を失い、親の仇を討つべく大泥棒・石川五右衛門と名のるようになります。 歳月は流れ、秀吉の手から出雲の阿国の危機を救った五右衛門。実は阿国の夫の名古屋山三も光秀の家臣の息子とわかり、三人は共通の敵、秀吉に立ち向かうことにしたのですが…。

　夜の部の『GOEMON』は、平成23（2011）年11月に大塚国際美術館（徳島県鳴門市）にある、バチカン市国のシスティーナ礼拝堂を模したシスティーナホールでの「システィーナ歌舞伎」で初演されました。大泥棒の石川五右衛門が、スペイン人神父と明智光秀の旧臣四王天但馬守の娘、石田局の子であるという奇想天外な発想ですね。
　「今回の2月公演でやらせていただきたいと、私からお願いしました。五右衛門は赤毛の百日鬘（かつら）です。五右衛門が出雲の阿国と恋仲になり、フラメンコを教えます。名古屋山三と五右衛門が出会って争いになる『鞘当（さやあて）』、五右衛門が山門に陣取っての“絶景かな”、五右衛門が葛籠（つづら）を背負って宙乗りをする“葛籠抜け”もあります」

　いろんな芝居が詰まっているのですね。
　「いつも歌舞伎をご覧になる方が見たら、すぐに“あのパロディだ”とわかるでしょう。『新八犬伝』もそうですが、初めてご覧になった方にもわかりやすいし、見巧者の方にも面白い…。いろんな楽しみ方ができるようにつくりました。若い世代の俳優が出ているので、ことに若い人に見に来ていただきたいですね」