歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



御覧いただきたいのはここ!


丑松になりきってお米にぶつかっていく

 「序幕」は鳥越のお米の母、お熊の家です。丑松は、お熊と浪人の潮止当四郎の二人を手に掛けてしまい、そこから悲劇が始まります。逃亡を決意するまで、丑松とお米は2階で切羽詰まったやりとりをします。緊迫した場面ですね。
 「そこが、今の僕には一番難しいのじゃないかなと思います。“ほかに法はあったに違えねえのに”と丑松は自分でも言いますが、ついかっとなってしまった。元々が、何かあると自暴自棄になってしまうタイプの男。そういうところを序幕で、くっきりと出しておかないといけないですから」
 「お米と逃げるところも、毎日、(お米を演じる)梅枝君と僕でつくっていく。先輩や同輩、後輩と夫婦役や恋人役をやってきましたが、それとは別の形でお米を愛さないといけない気がします。丑松が愛しすぎるから、お米が追い詰められてしまう…。日々変わっていくと思います。丑松という人間になりきらないといけません」


 板橋の妓楼で女郎となったお米と丑松は再会します。丑松はお米の言い分に聞く耳を持たず、怒りを露わにします。
 「鳥越の2階で梅枝君との歯車が合えば、その後も行けると思うんです。お米に対する丑松の八つ当たりみたいな怒りは、すごく僕にはわかります。実は僕にもそういう部分がある。僕の今までの恋愛だったりを、そのまま梅枝君にぶつければいいかなと思っています」

 「序幕」で描き出した丑松像が、ここで生きてくるのですね。
 「お米をなじる間、丑松の頭の中は真っ白のはずです。ここは、お米のほうが難しい気がします。お米が丑松の心を、言葉尻で引っ掛ける。僕はそこに乗っていく。梅枝君も、今までにこういうタイプの役はやったことがないと思いますが、期待しています。いい奥さんになってくれるのではないかと非常に楽しみです」

よく書き込まれているキャラクターたち

『暗闇の丑松』は、こんなお芝居

料理人の丑松には、お米という恋女房がおり、二人はお米の母、お熊の家で世話になっています。強欲なお熊はお米を妾奉公へ出したいのに聞き入れられず、折檻を繰り返していました。そこへ帰ってきた丑松が、お熊と見張りの浪人を殺害。丑松はお米とともに、兄貴分の四郎兵衛を頼ることにします。

それから一年。四郎兵衛にお米を預けて江戸を離れていた丑松は、音信不通になったお米に会いたい一心で江戸へ戻ってきます。その途中、雨宿りに入った妓楼で女郎になったお米と再会。お米は四郎兵衛に騙されて苦界に売り飛ばされた事情を必死に語りますが、丑松は四郎兵衛を信じ切っており、お米に絶望するばかり。お米は丑松に最後の酌をねだると、自ら命を絶ってしまいました。

真相を知って恨みを募らせ、四郎兵衛を追ってきた丑松。ついに湯屋で四郎兵衛に手を掛けるときが来ました…。

 真相を知った丑松は四郎兵衛の家に行って妻のお今を殺し、その後、銭湯に行って四郎兵衛の命を奪います。
 「風呂場の裏側が出てくるのがおもしろいですね。そこまで、がっちりとお客様をつかんでおいて、三助の軽妙なフットワークで和ませる。僕の所属する尾上菊五郎劇団の若い俳優の力を借りようと思います。アンサンブルがうまくかみ合うといいですね」

 風呂場の場はとてもよくできていて、見ていておもしろいですね。
 「この作品は、一瞬しか出てこないような、熊さん、祐次、岡っ引きから三助に至るまで、それぞれキャラクターがおもしろい。丑松に殺されるお今にしても非常によく書けている。そこに市川団蔵さんや、市村萬次郎のにいさん、河原崎権十郎のにいさんという劇団の先輩や、同輩、後輩の生きのいいのが参加してくれるのは、とてもうれしいです。すべてを自然の流れで見せられるようにしたい。“あっ、段取りだね”みたいに見えないようにしたいと思います」

ようこそ歌舞伎へ

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