歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



御覧いただきたいのはここ!


体を酷使してまろやかさを感じていただく

 喜撰法師は、三津五郎家の代々が大切にしていらした踊りとうかがっています。
 「曽祖父の七代目が得意とし、八代目、九代目、私と三代続いて襲名狂言にも選ばれました。昭和26(1951)年1、2月の第四期の歌舞伎座の柿葺落興行でも七代目三津五郎が勤めていますから、第五期歌舞伎座の柿葺落に選ばれたのは光栄でありがたいことです」

 喜撰法師は「六歌仙」にも選ばれている歌人で高僧ですが、お梶と戯れたり、さまざまな姿を見せます。
 「お坊さんは、上半身が男で下半身が女で踊るのが口伝です。軽妙な振りをこなさなくてはならないのですが、がに股にもできませんし、歩幅が大きいと品がなくなります。軽さ、まろやかさを感じていただくには、体を酷使しないと表現できません。人間の身体は、下半身がしっかりしていないと上半身は柔らかく動かないものなんですよ」

 〈チョボクレ〉や〈住吉踊り〉が印象的で楽しいですね。
 「平安朝のお坊さんを江戸時代に置き、願人坊主の大道芸の〈チョボクレ〉や〈住吉踊り〉を踊らせるのが眼目です。〈チョボクレ〉が実は一番大変です。着流し姿で足をあまり広げられず、軽く見せなければいけないのに、立ったり座ったりが多い。〈住吉踊り〉では、傘に下がって風に揺れるよう、風に舞う木の葉のように重さを感じさせないように踊らなければなりません」

技術の引き出しがないと踊るのは難しい

『六歌仙容彩 喜撰』は、こんな作品

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平成23年12月
京都四條南座
(C)松竹株式会社

 瓢箪をさげた桜の枝を手に持ち、浮かれた様子で桜満開の京都、東山にやってきたのは喜撰法師。茶汲女の祇園のお梶が出迎えて茶を差し出すと、被衣(かつぎ)からのぞいた顔の美しさにびっくり、お茶をこぼしてしまいます。身震いするほどのその色香、さっそく口説き始める喜撰ですが、付き合って念仏踊りなどを一緒に踊ったお梶は、前垂れを喜撰の頭にかぶせて奥に入ってしまいました。そこへ、弟子の所化たちが喜撰を迎えにやって来ます。持っている赤い長柄傘は、色事に惚けているお師匠様に「濡るるを厭え」との無言のご意見。所化たちが住吉踊りを賑やかに踊ってみせると、喜撰はお梶の残していった前垂れを締めて面白おかしく女ぶりを踊り、やがて自分の庵を目指して帰っていくのでした。

 ほかにも面白い振りが付いているように思います。
 「“時代に踊る”ところもあるし、しぐさに近い世話っぽいところもある。あの振付の発想は普通は出ません。昔の人はすごいですよね。“姉さんおんじょかえ”からは、東海道の宿場の世界に入ります。“旅宿はいつもお定まり、お泊りならば泊まらんせ お風呂もどんどん沸いている”とお風呂を炊いたり、障子を張り替えたり、畳を変えたりするふりを見せます。畳を変えるところなんて当てぶりで、そのとおりの仕種を見せます」

 まさに風呂や部屋の様子が目に見えるかのように踊られています。
 「それぞれの形がきちっと見えないと、時代を越えた楽しさが出てこないですし、それを表現する技術がないとなかなか一つの踊りになりません。清元と長唄の両方の演奏が入り、踊り方も違います。自分の中のいろんなものを引っ張りだして踊れるので、楽しいですが、技術の引き出しがないと難しい踊りになります」
 「ただ振りだけを覚えても変化が付けられない。段切れは元のお坊さんに戻ります。どれだけつなぎ目を目立たせずに、なめらかに踊れるかですね」

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