歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



もっともっと楽しんでいただくために


失敗が許されないというプレッシャー

 十代目三津五郎の襲名披露公演(平成13年1月歌舞伎座)で初演されました。
 「最初は硬かったと思いますが、段々に頭で考えて体を動かすのではなく、自然に清元と長唄の曲に乗って体が動くようになってきました。計算を超越して曲に体をゆだねる――。いい曲だなと思いながら踊っている瞬間が増えてきましたね」

 三津五郎さんが目指されているのは、どのような『喜撰』ですか。
 「一所懸命に汗を流せばいいという踊りではありません。襲名披露で初めて踊ったときは44歳でした。大和屋(三津五郎家)といえば、喜撰といわれるまでの家の芸ですから、若いうちは、失敗が許されないというプレッシャーもあり、なかなか手が出せませんでした」
 「でも、曾祖父の七代目は、子ども芝居の頃から、妹の(三世)玉三郎のお梶で嫌になるぐらいやったと著書(『舞踊藝話』利倉幸一編著、演劇出版社刊)にあります。それぐらいから踊り、最後は70歳を過ぎてもやっていた。それも、一つの行きかたなのかなと思います。いろんな経験をして、テクニックを身につけ、濾過してからでないと表現は難しい踊りでしょうね」


 どちらがいい、ということでもないお話かとは思いますが…。
 「若い頃から照れずにやって、身に付けておいてから、枯淡の境地に達する――。枯れたものだから、枯れてからやればいいというものではないのかなという気が今はしています。無理でも若いうちに挑戦したほうがいいのかもしれない。煩悩を解脱するのがお坊さんですが、喜撰はしていない。それを全部ひっくるめて、きれいな桜の下で明るく朗らかに踊る。あまり理屈を考える踊りではないと思います」

21世紀の最初の正月、襲名の初日

歌舞伎座新開場 柿葺落六月大歌舞伎

平成25年6月3日(月)~
29日(土)
公演情報

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平成23年12月京都四條南座
(C)松竹株式会社

第一部
『六歌仙容彩 喜撰』

喜撰法師 三津五郎
所化 秀 調
亀三郎
亀 寿
松 也
梅 枝
歌 昇
萬太郎
巳之助
壱太郎
新 悟
尾上右近
廣太郎
種之助
米 吉
廣 松
児太郎
鷹之資
祇園のお梶 時 蔵

 何度も踊っていらっしゃいますが、特にご記憶に残る公演はありますか。
 「平成20(2008)年5月の歌舞伎座で踊ったときに、襲名で初めてやったときとずいぶん変わったなと思いましたね。初めてのときは、なかなか柔らかさが出なかったし、つなぎ目のないようにも踊れなかった。百回ぐらいやらせていただき、ようやく自分の思う喜撰に近づいたなと思いました。そこからぐんと楽になったような気がします」
 「また、初演は2001年1月2日が初日、21世紀の正月の襲名の初日。一歩踏み外せば下に落ちる、雲の上を歩いているような緊張がありましたね」


 『六歌仙容彩(ろっかせんすがたのいろどり)』を通しても、踊っていらっしゃいますね(平成13年4月大阪松竹座、同21年8月歌舞伎座)。
 「通して踊って感じるのは、『業平』の絶妙な短さです。業平の踊りは、単独では上演されません。一つだけを観ると物足りませんが、あれを五段続けて踊ったときに思うのが、『業平』の絶妙な短さなのです。例えて言うなら、お魚のメインディッシュの『文屋』があり、口直しのシャーベットの『業平』があり、お肉のメインディッシュの『喜撰』、そして最初と最後に芝居仕立ての『遍照』と王朝の大時代な世界の『黒主小町』がある。構成のうまさを感じます」

 一つずつがよく、さらに全体の構成もうまくできている。
 「七変化、五変化など多くの変化舞踊が作られたなかで、ほぼ『六歌仙』だけが今でも通した形で上演されるのもわかる気がします。『喜撰』だけだと、きれいなまま出ていけるのでいいですね。平成21年の納涼大歌舞伎で通して踊ったときは、『喜撰』の頃は汗でドロドロになっていましたから」

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