歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



京都四條南座 「三月花形歌舞伎」  『素襖落』 知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 尾上松緑

これまでやってきたことが舞台に表れる狂言舞踊

 ――『素襖落』は伯父御を姫御寮に変えるなど、狂言を題材にしながら、歌舞伎独自の工夫もなされています。

 お狂言物は、派手な格好もしませんし、俳優の生身が見える、素踊りに近いような感覚があります。例えるなら、裸で踊っているのと同じように体の線が見えてしまう。また、踊りだけに気を取られてしまうと、素襖を盗られてからのお狂言物らしい、ほんわかとした風情が出てきません。その二つを両立させることが難しいでしょう。

 でも、それを祖父にしても、父(三世松緑)にしても、たやすくやっているように見せておりましたので、僕もその域に行けるまで演じ続けたいと思っています。

 ――狂言物は、歌舞伎では松の羽目板を背景に使うことから、「松羽目物」といわれますが、どこに魅力を感じられますか。

 ロックでがんがん賑やかに音をかけて楽しんでいる人間も、ふっとアコースティックがいいなと思うときがあるのではないでしょうか。それと同じで、自分の体ひとつで勝負をしたいという気持ちが、僕にはあります。

 狂言舞踊は非常に潔いもので、これまでに自分がやってきたことがすべて出ますし、「松羽目物」をきっちりと勤めるのは、僕にとって歌舞伎俳優としても舞踊家としても大きな命題だと思います。

京都四條南座 「三月花形歌舞伎」

平成26年3月2日(日)~26日(水)

公演情報

昼の部
新歌舞伎十八番の内しんかぶきじゅうはちばんのうち

『 素襖落 』すおうおとし

太郎冠者 尾上 松 緑
太刀持鈍太郎 坂東 亀 寿
三郎吾 坂東 巳之助
姫御寮 坂東 新 悟
次郎冠者 尾上 松 也
大名某 河原崎 権十郎

南座の舞台にぴったりの『素襖落』

 ――曽祖父様の七世松本幸四郎さんは初演で鈍太郎を勤められ、その後は太郎冠者を得意にされました。お祖父様も、お父様も当り役とされました。

 曾祖父、祖父、父と得意にしてきたものを、僕が汚すわけにはいきません。尾上菊五郎家の端に位置する人間としても、幸四郎家の血縁に連なる者としても、縁の深い狂言ですから大事にしていきたい。

 ――松羽目物ではほかに『棒しばり』と『太刀盗人』などをなさっています。

 いきなり『素襖落』の太郎冠者を演じる俳優はいないと思いますが、過去に二つの作品を勤めたことが、自分の中でもちろんプラスになっています。

 ――南座には昨年12月の「吉例顔見世興行」にも出演されました。

 松羽目物の『素襖落』のような作品は南座の舞台にとても合うのではないでしょうか。桟敷席の朱の欄干にしてもアクセントを添えてくれます。南座はお客様も背景になる。非常に華やかになるのではないかと思いますね。

 今回は昼の部の中幕の『素襖落』から『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』、夜の部の『御摂勧進帳(ごひいきかんじんちょう)』と出ずっぱりです。忙しくさせてもらえるのは、ありがたいことです。声が掛からなくなってしまったら終わりですから、必要としてもらえるのは役者名利に尽きます。

ようこそ歌舞伎へ

バックナンバー