歌舞伎いろは

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歌舞伎座 「鳳凰祭四月大歌舞伎」  『鎌倉三代記』今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村魁春

五世中村歌右衛門がつくり上げた型

 ――時姫は『十種香(本朝廿四孝:ほんちょうにじゅうしこう)』の八重垣姫、『金閣寺(祇園祭礼信仰記)』の雪姫と並び、「三姫」と呼ばれる、歌舞伎のお姫様の大役です。そして、お祖父様の五世中村歌右衛門さん、お父様の六世歌右衛門さんと、代々が得意にされてきたお役です。

 おっしゃるとおり、祖父の五世歌右衛門が得意とし、今ではほとんどの方が祖父の型でなさいます。せりふは大胆ですが、動きは地味です。三浦之助の側から離れません。型がなかったらできませんが、気持ちでやるようにしないと、あの動きが備わらないのが難しいところです。

 ――北条時政の娘でありながら、敵方の三浦之助に思いを寄せ、押掛け女房のようになっています。幕開きは三浦之助が戦場から傷を負って帰ってくる。気を失った三浦之助を介抱し、病身の母親とのやりとりがあって再び出陣しようとする三浦之助を止める。そこまでが前半となります。

 手拭いを姉さん冠り(あねさんかむり)にして、手に行燈を持って出てきます。気を失った三浦之助に薬を口移しで飲ませるところもそうですが、最初は世話っぽいんですよね。でもお姫様です。

 時姫はところどころに決まりの形がありますが、そこを意識しすぎると素の自分に戻ってしまいます。そうするとお姫様ではなくなります。当たり前のことですが、幕が開いてから終わるまでお姫様でいなくてはなりません。どんな役でもそうですが、油断してはいけないんです。

 ――型を気持ちでやるようにしないと、とおっしゃるのはそういうことなのですね。

 三浦之助との決まりでも、自然にお姫様になっていなくてはならないと思います。いい形をしようと思ったら、もうダメです。お姫様の格好をしている魁春が動いているな、としかお客様に思われなくなってしまう。慣れてはいけません。

『鎌倉三代記』(かまくらさんだいき)絹川村閑居の場

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昭和50年2月新橋演舞場
(C)松竹株式会社

 北條時政率いる鎌倉方と源頼家の京方が戦を交える中、京方の武将の三浦之助義村は、病床の母、長門にひと目会おうと絹川村の閑居にたどり着きました。門口に倒れ込んだ三浦之助を介抱したのは、時政の娘ながら三浦之助を恋い慕い、長門の看病をしていた時姫。長門に対面を拒まれて戦場に戻ろうとする三浦之助に、時姫は一夜だけでも夫婦の固めをと願い出ます。敵方の娘ゆえ時姫への疑念が晴れない三浦之助ですが、長門の命が今日明日と告げられ、奥の間に入っていきました。
 深夜になり、時姫を連れ戻しに来た安達藤三郎は、時政から預かった守り刀を証拠に、時政ののもとへ帰ろうと時姫に言い寄ります。時姫がその無礼な態度に怒るので、藤三郎は井戸の中へ逃げ込みます。その刀で、せめてあの世で夫婦にと自害を図る時姫。それを見た三浦之助は、自らの死後に夫の敵である時政を討てば、未来永劫夫婦だと時姫を説き伏せます。この言葉を聞いた時姫は涙ながらに実父の時政を討つと誓います。
 この一大事を鎌倉方へ注進しようと、様子を窺っていた安達藤三郎の女房のおくると富田六郎が現れますが、おくるを三浦之助が捕え、六郎は井戸から突き出された槍で息絶えます。井戸から現れたのは先ほどの藤三郎でしたが、その正体は京方の智将、佐々木高綱。すべては時政を討つための高綱と三浦之助の策略でした。折しも陣太鼓が鳴り響き、高綱に励まされた三浦之助は再び戦場へと向かうのでした。

三浦之助の女房から時政の娘として

 ――後半には、実は佐々木高綱である藤三郎とのやりとりと、自害しようとして三浦之助に止められるところがあります。

 後半のほうが楽です。時政の娘のお姫様でずっと通せますから。奥から出てきて藤三郎に向かい「三浦之助義村が妻の時姫、たとえ父上でも敵味方、敵の家へ何の帰ろう、迎いの者もあるべきに、名も知れぬ新参者、返事に及ばぬ、帰りゃ帰りゃ」と、せりふでいうところは、気持ちがいいですよ。前半みたいにうじゃうじゃしなくていい。

 それに比べて前半は、時政の娘というのは置いてあり、三浦之助に対する愛情しかないですからね。

 ――今回の三浦之助はお兄様の梅玉さんですね。

 兄とは共演する機会も多く、『絵本太功記』「十段目」の十次郎と初菊もやっておりますから、「こうしよう、ああしよう」と言わなくても済むところがあります。

 今度の公演は高麗屋さん(松本幸四郎)のお考えで、富田六郎とおくると二人の局が登場するくだりを、真ん中から幕開きに持ってくるやり方になる予定です。そこで、これまでの経緯を六郎が説明しますから、話がずいぶんわかりやすくなると思います。とはいえ、時姫の部分はいつもと一緒で変わりません。

ようこそ歌舞伎へ

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