歌舞伎いろは

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歌舞伎座 「鳳凰祭四月大歌舞伎」  『鎌倉三代記』 知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 尾上松緑

初の大役で父に怒鳴られる

 ――魁春さんは時姫を、昭和50(1975)年2月の新橋演舞場で初演されました。そのときに、お父様の歌右衛門さんのご指導を受けられたとうかがいました。当時の思い出をお聞かせください。

 初めての大役だったように記憶しています。父に事細かに教わったのも初めてでした。父は細かいことをあまり口に出しては言いません。自分がやって見せるだけでしたから、それをなぞるのが大変です。あまりしつこく聞けませんから、一所懸命に覚えなくてはなりませんでした。

 播磨屋さん(中村吉右衛門)の佐々木高綱と澤村藤十郎さん(当時、精四郎)の三浦之助が先に決まっていたのだと思います。父は時姫の気持ちについては、何も言いませんでした。役として動いているうちに自然に気持ちが入っていくと思っていたのでしょう。今度はそれ以来、39年ぶりです。

 ――お父様からのお教えで思い出に残っていることはございますか。

 どうにか初日開けなくてはいけないので、2日間ぐらい父が見て、しばらく来なくて中日ぐらいに来たんですよね。前半が終わって引っ込んだら、父が舞台裏にまいりまして、怒鳴られました。「せっかく教えたのに」って。そして、後半は見ないで帰ってしまいました。

 父は15歳で時姫を初演しています。初演はなんとか勤め、16、17歳で2度目にやったときに、五代目のお父さんに相当怒られたと、私に言っておりました。だから、父も同じように私に怒っているんだなと思いました。

 ――具体的にはどのようにご注意を受けられたのでしょうか。

 父は祖父に「動きがお姫様ではない、藤雄(六世歌右衛門の本名)が動いているだけだ」と言われたのだそうです。私もそうだったのだろうと思います。「お姫様じゃなくて、松江(当時)が三浦と絡んでいる」と。自分もそう言われたから私の舞台を見て、一層強くそう感じたのではないでしょうか。

歌舞伎座 「鳳凰祭四月大歌舞伎」

平成26年4月2日(水)~26日(土)

公演情報

昼の部
『 鎌倉三代記 』かまくらさんだいき

絹川村閑居の場きぬがわむらかんきょのば

佐々木高綱 松本 幸四郎
時姫 中村 魁 春
母長門 中村 歌 江
おくる 中村 歌女之丞
富田六郎 大谷 桂 三
三浦之助義村 中村 梅 玉

雀右衛門の時姫に父の教えを見る

 ――魁春さんはその後、中村雀右衛門さんの時姫でおくるを3回演じていらっしゃいますね(昭和58年11月歌舞伎座、平成8年5月歌舞伎座、同11年6月歌舞伎座)。

 おくるも大変なのですが、その前には讃岐の局で出演しております(昭和45年4月歌舞伎座)。阿波の局は(澤村)田之助さんでした。局役を、それまで勤めたことがありませんでしたから、大変と言えばこれも大変でした。

 ――雀右衛門さんの時姫で印象深いのはどんなところでしょうか。

 京屋のおにいさん(雀右衛門)が時姫をやられたときは、父が教えているのを側で見ておりました。京屋のおにいさんは、再演されても常に教わられたとおりになさっていらしたから、次に私が勤めるときはあのとおりに、と思ったものです。

 でも、その後も時姫は、ずっと京屋のおにいさんがなさることが多かった。もう私が演じることもないだろうと思っていたので、今回のお話が来たときには驚きました。前よりは少しはましに勤めたいと思います。

 ――では今回は、どこをポイントに演じられるおつもりでしょうか。

 特に前半ですが、時姫は、一にお姫様であり、二に三浦之助が好き、三にお母さん(長門)のことを思う、というところでしょうか。時姫は出陣しようとする三浦之助を止める「短い夏の一ト夜さに」のサワリが見せ場ですので、特にそこを時姫になりきって勤めたいです。

ようこそ歌舞伎へ

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