歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



明治座 「明治座 五月花形歌舞伎」  『伊達の十役』 知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 市川染五郎

完璧な台本、完璧な演出

 ――『伊達の十役』に惹かれたきっかけをお教えください。

 実は、生の舞台を拝見したことはありません。初演が昭和54(1979)年4月の明治座で、僕の初舞台の年でした(同年3月歌舞伎座)。ですが、歌舞伎作品の復活上演を試みるようになったときに、演出の奈河彰輔さんのお話によくおじ様が登場しました。

 舞台化するのにいい本はないかと探していると、これはと思ったものは、必ずおじ様が手掛けていらっしゃる。そこに自分が引っ掛かるのは間違いではないんだと確認することにもなりました。『伊達の十役』の裏の仕掛けまで紹介するテレビ番組の録画を、今も時間さえあれば見ています。

 ――裏の仕掛けといえば早替りの回数も相当ですが、やはり大変なのでしょうか。

 鬘(かつら)も衣裳もおじ様と同じものを使います。すべてが計算され尽くしています。鬘は顔に跡が付かないものが選ばれていますし、道哲も本来なら顔の化粧が砥の粉(とのこ)の役なのですが、化粧を変えなくても照明の色を変えることで、肌の色がそれらしく見えるように工夫されています。

 台本も演出も完璧なので、めちゃくちゃ走らなければ早替りに間に合わなくなるような箇所はないんですよ。おじ様がつくられたものを再現することに尽きます。その点、おじ様の舞台を熟知されている(市川)右近さんと猿弥さんが、具体的に見てくださるのでありがたいです。

明治座 「明治座 五月花形歌舞伎」

平成26年5月2日(金)~26日(月)

公演情報

夜の部

慙紅葉汗顔見勢はじもみじあせのかおみせ

三代猿之助四十八撰の内『 伊達の十役 』だてのじゅうやく

市川染五郎十役早替り宙乗り相勤め申し候

口上 市川 染五郎
仁木弾正
絹川与右衛門
赤松満祐
足利頼兼
土手の道哲
高尾太夫
腰元 累
乳人政岡
荒獅子男之助
細川勝元
沖の井 市川 高麗蔵
渡辺民部之助 中村 亀 鶴
京潟姫 中村 壱太郎
山中鹿之助 中村 種之助
新造薄雲 中村 米 吉
新造小紫 大谷 廣太郎
笹野才蔵 中村 隼 人
松島 中村 児太郎
大江図幸鬼貫 中村 吉之助
渡辺外記左衛門 松本 錦 吾
山名持豊 大谷 桂 三
三浦屋女房松代 坂東 竹三郎
八汐 中村 歌 六
栄御前 片岡 秀太郎

歌舞伎座での共演を楽しみに

 ――猿翁さんの舞台に取り組む姿勢にも惹かれていらっしゃるのですね。

 おじ様は新しい技法を駆使した「スーパー歌舞伎」を含め、歌舞伎でしかできない芝居をずっとつくってこられました。普通なら、「こうしたら面白いだろうけれど、難しいし、不可能だろうな」と片付けてしまうところを、形にされている。その徹底ぶりはすごいと思います。

 ――ご一緒にお仕事をされたことはおありですか?

 唯一出演したおじ様演出の舞台は、「俳優祭」の『鯛多二九波濤泡(たいたにっくなみまのうたかた)』(平成12年3月歌舞伎座)。團十郎のおじ様との共同演出でした。猿翁(当時、三代目猿之助)のおじ様が演出席に座って僕にお芝居をつけてくださる。そんなことがあるんだと興奮しました。

 ――染五郎さんのお芝居を、猿翁さんが見にいらしたこともおありとうかがいました。

 僕が新橋演舞場で劇団☆新感線の『アテルイ』(同14年8月)に出演したときに、見に来てくださったのには驚きました。ギャグを抜かせば歌舞伎になると言っていただきました。日生劇場の『染模様恩愛御書(そめもようちゅうぎのごしゅいん)』(同22年3月)にもおいでいただきました。

 江戸川乱歩作品を歌舞伎化した『江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)』(同20年11月国立劇場)にも来てくださいました。そのときに、ご病気になられてから初めてお目にかかったのですが、「おじ様が新しい挑戦を続けてこられたので、こうやって僕も乱歩歌舞伎ができました」と申し上げたら、「新しい歌舞伎座ができたら一緒に出ようね」とおっしゃってくださいました。いつかその日が来ると思っています。

ようこそ歌舞伎へ

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