歌舞伎いろは

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歌舞伎座 「秀山祭九月大歌舞伎」  『法界坊』『絵本太功記』今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村吉右衛門

素晴らしかった十七世勘三郎の法界坊

 ――『法界坊』は初代吉右衛門が何度も手掛けられ、まさに「秀山祭」にふさわしい演目の一つです。

 (十七世中村)勘三郎のおじさんの法界坊で野分姫を勤めたのが(昭和32年6月新橋演舞場)、私がこの演目に出た最初で、まだ13歳でした。当時は女方に抵抗感がありましたが、今思えばそれが、いい勉強になりました。それで今度は、中日交代で前半は種之助君、後半は児太郎君という若い2人が野分姫をやります。

 ――法界坊は女性に目のない破戒僧です。愛嬌のある一方で、人殺しもいとわない残酷さも持ちます。演じられるうえで留意されるのはどんなところでしょう。

 若い頃は、法界坊の愛嬌を表現するのが難しかったのですが、年齢とともに、恥も外聞もなくなりましたので(笑)、わざとらしくない愛嬌を出せるのではと思います。その反面、足りなくなるのが凄みです。勘三郎のおじさんの法界坊はそこが素晴らしかった。ありがたいことにおじさんのビデオが残っておりますので、一所懸命に見て、愛嬌と凄みの変わり目を表現したいと思っております。

 法界坊のみならず、大抵の男性にはすけべえ根性がございます。それが執念へと変わり、殺人へと至る…。人間の業です。

『隅田川続俤 法界坊』(すみだがわごにちのおもかげ ほうかいぼう)歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」

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平成19年5月新橋演舞場
撮影:一光堂

 釣鐘建立の勧進をする法界坊は、永楽屋の娘おくみに恋い焦がれ、そのおくみは手代の要助を恋い慕っています。実は要助は、紛失した鯉魚の一軸を探し出して吉田家再興を目指す松若で、野分姫という許嫁まである身でした。おくみが要助に言い寄るのを見て嫉妬した法界坊は、要助を陥れようとしますが、元は吉田家の家来筋だった道具屋甚三の機転で企みは失敗。次におくみを誘拐しようとしますがこれもうまくいかず、今度は野分姫を口説き始めます。野分姫に抵抗され、ついに姫に一太刀浴びせた法界坊が、松若とおくみの恋路を邪魔するから殺すよう頼まれたのだとうそぶいたため、姫は恨みを残して息絶えます。そこへ甚三が一軸を取り戻そうと駆けつけ、争ううちに自分の掘った穴に落ちた法界坊は…。

『隅田川続俤 法界坊』

聖天町法界坊 中村 吉右衛門
おくみ 中村 芝 雀
手代要助 中村 錦之助
野分姫
(1日~13日)
中村 種之助
野分姫
(14日~25日)
中村 児太郎
五百平 中村 隼 人
丁稚長太 中村 玉太郎
大阪屋源右衛門 橘三郎
代官牛島大蔵 澤村 由次郎
おらく 片岡 秀太郎
道具屋甚三 片岡 仁左衛門

浄瑠璃「双面水照月」ふたおもてみずにてるつき

法界坊の霊/
野分姫の霊
中村 吉右衛門
渡し守おしづ 中村 又五郎
手代要助
実は松若丸
中村 錦之助
おくみ 中村 芝 雀

歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」
■平成26年9月1日(月)~25日(木)

遊び心をたっぷり見せて一気に後半へ

 ――料亭の「大七」では、鯉魚の一軸のすり替えや法界坊の恋文を巡っての騒動が展開されます。この場面や「牛の御前鳥居」「三囲土手(みめぐりどて)」では、流行語を取り入れるなど、おかしみのある入れ事や動きで客席を沸かすことが多いですね。

 それくらい遊び心のあるお芝居です。遊ぶところは遊ぶからこそ、凄みのある部分がギュッとしまるわけです。「鳥居」では、道具屋を駕籠に入れて「しめこのうさうさ」と言いながら法界坊が縄を掛けます。その前に長九郎がおくみを駕籠に押し込んで縄をかけることの鸚鵡(おうむ、繰り返し)になりますが、ここは下座に乗らないといけません。勘三郎のおじさんは縄跳びをされました。私も真似をいたします。

 「三囲土手」では法界坊が落とし穴を掘ります。あそこは本当に喜劇で、笑って肩の力を抜いていただくところです。その後に殺しやお化けが出ますので、お客様にリラックスしていただき、後半に持っていきます。土手の上から下へ落ちるとき、法界坊が返り落ちをするのですが、怪我をするといけませんので、できません。それに代わることを考えております。

 ――今回は大詰に舞踊の『双面』が付き、法界坊と野分姫の合体した霊を勤められます。

 法界坊の部分でのおどろおどろしさを、振付の藤間勘祖先生とお話して出したいと思います。これも勘三郎のおじさんは、女方もなさっていた方ですから、よかったですね。そこから法界坊になるときも、とりたてて何もなさらないのですが、凄みがあった。野分姫の声は付け声と申しまして黒衣(くろご)が付けます。今回は野分姫を勤める種之助君と児太郎君の2人にやってもらいます。

ようこそ歌舞伎へ

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