歌舞伎いろは

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歌舞伎座 「十月大歌舞伎」  『伊勢音頭恋寝刃』知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村勘九郎

ぴんとこなの貢

 ――貢は柔らか味が勝った“つっころばし”とは異なる、柔らかさの中にも芯の強さを持つ“ぴんとこな”に分類される役です。初演では片岡仁左衛門さんの教えを受けられたとうかがいました。どんな点に留意されてお勤めになられますか。

 貢はすごく難しい役です。今は伊勢で参拝客などの世話をする御師の家の養子に入っていますが、元は武士で今田家に仕えていました。ですから、旧主の今田万次郎が騙り取られた青江下坂の刀の探索に当たっています。

 「油屋」での最初の頃のお岸や女性たちとのやりとりでは、本当に柔らかい感じを出します。万野に悪口を浴びせかけられ、貢は怒りに震えます。丸めた手紙を万野に投げつけられ、刀を取ろうとしますが、店に入るときに預けてあるのでありません。音羽屋型だと扇子を引き裂きますが、僕は仁左衛門のおじ様の型ですので、両手を後ろに回して見得をいたします。

 ――ほかにも、貢の人となりがよく現れているところがありますね。

 「身不肖なれども福岡貢、女郎をだまして金とろうか」という有名なせりふがあります。貢が煙管に火をつけようとして、万野に対する怒りで手がぶるぶる震えて煙草が揺れ、火がつかないという描写はすごくうまくできていると思います。

 「女子をとらえて大人げない」という貢のせりふがありますが、元は武士ですから、万野に対しては、あまり怒ってはいけないというのがあります。(坂東)玉三郎のおじ様の万野との呼吸を合わせて演じられたらと思います。

歌舞伎座「十月大歌舞伎」

平成26年10月1日(水)~25日(土)

公演情報

『 伊勢音頭恋寝刃 』いせおんどこいのねたば

福岡貢 中村 勘九郎
油屋お紺 中村 七之助
今田万次郎 中村 梅 玉
油屋お鹿 中村 橋之助
油屋お岸 中村 児太郎
仲居千野 中村 小山三
藍玉屋北六実は岩次 大谷 桂 三
徳島岩次実は北六 坂東 秀 調
仲居万野 坂東 玉三郎
料理人喜助 片岡 仁左衛門

悩み苦しんだ末に得たもの

 ――仁左衛門さんの教えで印象に残られるのは、どんな点でしょう。

 せりふを言う際の息の吸い方や、貢の持つ雰囲気を教えていただきました。柔らかさが大切だということでしょうか。独特の語尾が難しかったです。東京式の音羽屋型はもっと強い感じになり、貢の人物像が違います。機会があれば、「油屋」だけではなく、前の場の正直正太夫が活躍する「宿屋」や「追っかけ」も演じたいと思っています。

 「宿屋」は、祖父(十七世中村勘三郎)が昭和37(1962)年7月に歌舞伎座で貢を演じて以来、歌舞伎座では上演されていないでしょう。祖父が貢を勤めたのはその1回だけです。

 ――2度目の貢で、心に期することはおありでしょうか。

 前回、ひと月やらせていただいた経験は大きかったです。辛抱役ですし、演じているときは辛く、貢は悩み苦しんだ役の一つでした。父(十八世中村勘三郎)は、貢こそ平成6(1994)年7月に大阪中座で一度演じただけでしたが、万野も喜助もお鹿もお紺も勤めております。ですから、すべてのお役が父への追善になるかと思います。

 実現はしませんでしたが、僕の勘九郎襲名の興行でも、父はお鹿を演じたいと申しておりました。

ようこそ歌舞伎へ

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