歌舞伎いろは

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歌舞伎座「三月大歌舞伎」『菅原伝授手習鑑』今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 尾上菊之助

事件が起きたのは桜丸のせい

 ――今回は「加茂堤」から「賀の祝」まで桜丸を通してなさいます。「加茂堤」は初めてとうかがいますが、桜丸、八重の夫婦が斎世(ときよ)親王と苅屋姫の仲を取り持つ、『菅原』の悲劇の発端となる場面です。

 のどかな春景色の中に牛車があり、そこで斎世親王の舎人の桜丸と女房の八重が恋の取り持ちをします。二人のとった行動で事件の方向に車が回り始めます。桜丸のせいで、この事件が起きた、ということを心に置いて勤めます。

 前髪立ちではありますが、八重との間では、少しセクシーなやりとりもあり、あまり可愛らしくならないようにしたいです。

 ――隈取、見得など歌舞伎らしい様式美に富んだ舞台です。どんなところに気を付けて演じられるのかをお教えください。

 前半は笠を被っておりますので、泣くところで大きく首を振ると、笠の動きが大きく見えがちなので、気を付けています。

 様々な資料にこの場の型が残っておりますが、荒事の梅王丸に対し、桜丸は優美さ、柔らかさを失わないようにといわれております。五代目菊五郎は桜丸で花道を入るときに「二足ごとに肩でシナを付けて入った」と言っています。荒々しい中にも柔和さを出さないと梅王丸との対比が出ませんので、注意しています。

15歳で勤めた「車引」の桜丸の思い出

 ――「車引」の桜丸を初演されたのは平成5(1993)年5月の歌舞伎座でした。当時はまだ丑之助さんを名のっていらして、15歳の若さでいらっしゃいました。

 父(菊五郎)に教わりましたが、正直な話、形になっていませんでした。松緑さん(当時 辰之助)の梅王丸、海老蔵さん(当時 新之助)の松王丸で、前月の明治座の楽屋で松緑さんとせりふ合わせをした覚えがあります。

 子どもながらに見て面白く、憧れていた狂言でしたので、桜丸をさせていただけることがうれしかったですね。

 ――「車引」の前の「道明寺」では、初役で輝国をなさいます。

 丞相様が覚寿に会えるように、53日も船出を日延べするような義に厚い武士です。股立ち(ももだち)を取ってすっきりとした二枚目ですが、情の心を常に持っていないといけないでしょう。仁左衛門のおにいさんによくおうかがいして勤めたいと思います。

『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ)

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撮影:加藤 孝

 菅家に仕える家に生まれた梅王丸、松王丸、桜丸は世に珍しい三つ子の兄弟。菅丞相(菅原道真)の執り成しで、舎人としてそれぞれ異なる家の主人に仕えており、今は兄弟といえども敵味方の立場に分かれています。

「加茂堤」
 帝の弟、斎世(ときよ)親王の舎人桜丸は、女房八重が連れてきた菅丞相の養女、苅屋姫と親王の忍び逢いを手引きします。そこを、菅丞相の政敵、藤原時平一味が攻めたて、桜丸が牛車の中の親王と姫を守ろうと必死に打ち払ううち、二人はいずこかへと落ち延びていきました。

「道明寺」
 時平公の陰謀で流罪となった菅丞相は、太宰府へ向かう途中、判官代照国の計らいにより伯母、覚寿の館で船出を待っています。落ち延びた苅屋姫は実の母である覚寿のもとに来て、父に会いたいと願いますが、養い親に義理立てする覚寿から折檻されてしまいます。そのとき次の間から折檻を止める菅丞相の声がしたものの、中には菅丞相の木像があるばかり。一方、時平公の意を汲んだ菅丞相暗殺の企みは着々と進み、ついに出立となって迎えの役の侍が菅丞相を迎えに来ました…。

「車引」
 菅丞相の舎人梅王丸と桜丸が、主人の窮地を思い、我が身の振り方を思案しつつも、父の賀の祝まではと話しているところへ、主人を陥れた張本人、時平公の乗る牛車が通りかかりました。牛車の前に立ちはだかる二人を制したのは、兄弟であっても忠義が大事と言う、時平公の舎人松王丸。三兄弟は遺恨を残して立ち別れました。

「賀の祝」
 父、白太夫の70歳の賀を祝うため、三兄弟の女房は宴の支度をしています。しかし、先日の一件以来、遺恨の残る松王丸と梅王丸が喧嘩を始め、白太夫と八重が参詣から戻っても、桜丸だけが現れません。夫を待ちわびる八重一人が残ったところで、ようやく桜丸が姿を見せました。すると、白太夫が思いがけない物を持って現れ、驚く八重に桜丸は苦しい胸のうちを語り始めます…。

ようこそ歌舞伎へ

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