歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「三月大歌舞伎」『菅原伝授手習鑑』知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 尾上菊之助

少ない動き、せりふで思いを伝える難しさ

 ――「賀の祝」についてもお教えください。父の白太夫の70歳を祝う宴の後に、桜丸は一人で死を選びます。喜びから一転しての悲しい場面です。

 納戸口から現れ、「女房ども、待ちつらん」という八重への呼びかけから桜丸は始まります。自分のせいでこうなったと八重に嘆きはしますが、桜丸が死を選ぶ気持ちに迷いはありません。心の中では様々な思いを抱えつつも、ひたすら死に向かって、淡々と語りたいです。

 動きも少なく、せりふも限られていますので、身体から滲み出るものが必要です。桜丸のように動かず、せりふの少ない役は、身体の中の意識をお客様にお伝えするのが本当に難しいです。

歌舞伎座「三月大歌舞伎」

平成27年3月3日(火)~27日(金)

公演情報

通し狂言『 菅原伝授手習鑑 』すがわらでんじゅてならいかがみ

【序 幕 加茂堤】

桜丸 菊之助
八重 梅 枝
斎世親王 萬太郎
苅屋姫 壱太郎
三善清行 亀 寿

【三幕目 道明寺】

菅丞相 仁左衛門
立田の前 芝 雀
判官代輝国 菊之助
奴宅内 愛之助
苅屋姫 壱太郎
贋迎い弥藤次 松之助
宿禰太郎 彌十郎
土師兵衛 歌 六
覚寿 秀太郎

【四幕目 車引】

梅王丸 愛之助
松王丸 染五郎
桜丸 菊之助
杉王丸 萬太郎
藤原時平公 彌十郎

【五幕目 賀の祝】

桜丸 菊之助
松王丸 染五郎
梅王丸 愛之助
新 悟
八重 梅 枝
千代 孝太郎
白太夫 左團次

舎人であって武士ではない

 ――白太夫や八重に対する気持ちはいかがでしょう。

 桜丸は父の白太夫、兄弟の梅王丸、松王丸、妻の八重の皆に愛されている。それだけ愛らしい人物なのでしょう。白太夫に対しては申し訳なさを感じていますが、自分の腹は決まっている…。何とかして助けたい白太夫の言葉がすごく悲しく聞こえますし、そこまで自分を思ってくれているのだと、痛い思いで聞いています。

 八重のことも心底好きなので、桜丸は別れるのが辛い。幕開きから納戸口よりの登場までしばらくありますが、ゆっくり呼吸を整えたいです。

 ――切腹はどのように演じられますか。

 舎人であって武士ではないということが表現できればと思います。腹切り刀も定法通りの九寸五分ではなく、鞘と鍔(つば)の付いた脇差を使いますので、小道具も演技を助けてくれています。あとは身体でどう見せるかです。

 ――桜丸は場面ごとにお姿が変わりますね。

 『菅原伝授手習鑑』は、それぞれの場面が面白く完結しているので、単独で各場面が上演されることも多い芝居です。役柄として性根は通っていなければなりませんが、各場面で表現方法が違います。「賀の祝」を一度経験させていただいたことで全体が見え、性根や心理もわかってまいりましたが、「賀の祝」は、わかったからといって簡単にできるお芝居ではないと感じております。

ようこそ歌舞伎へ

バックナンバー