歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



博多座「六月博多座大歌舞伎」『播州皿屋敷』今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村梅玉

悪の色気も出るような工夫を

 ――『播州皿屋敷』の浅山鉄山は初役です。

 芝居を拝見したことがありませんでした。台本を読んだら、何の複雑な内面もない、本当の敵役。お菊に横恋慕し、御家の横領の秘密を探られないために殺してしまいます。

 松嶋屋さん(片岡仁左衛門)が復活上演で鉄山をなさったとき(昭和46年6月新橋演舞場)は、喜の字屋のおじさん(守田勘弥)にご指導を受けていらっしゃいます。当時の資料を見ると、松嶋屋さんはおじさんに「裏も表もない、内面的なものなんて考えずに大きく見せれば、それでいいんだ」と言われたそうです。私もそれにならおうかと思います。

 ――梅玉さんが、今までに手がけてこられなかったような系統の役です。

 松嶋屋さんのあとは、幸ちゃん(中村橋之助)がやっています。お二人のような、すっきり系の人がやっている芝居ですから、私がやるのもありかなと思いました。色敵と大敵の間ぐらいの感じですよね。化粧は強めにし、凄惨な感じを出したいので青を入れます。

 ――衣裳はどのようにされるのでしょうか。

 松嶋屋さんも、幸ちゃんも織物の袴を履いています。上は黒の着付。黒ですと、ある程度顏が白いほうが似合うんです。『東海道四谷怪談』の伊右衛門までいくと色敵ですが、あちらよりは家老職ですから線が太い。『敵討天下茶屋聚(かたきうちてんがぢゃやむら)」の東間三郎右衛門のような感じでしょうか。

 猿弥さんが家来の忠太で、あちらは『天下茶屋聚』なら安達元右衛門だと思います。猿弥さんのお力も借りて残酷にしたいです。ただ強いだけではおもしろくない。悪の色気みたいなものが出たほうが役が生きてくるので、そこも工夫しようと思っています。

『播州皿屋敷』(ばんしゅうさらやしき)

 細川家の国家老、浅山鉄山の下館では、中間たちまでが腰元のお菊に横恋慕する鉄山の噂をしています。実は鉄山は、細川家当主が病床にあるのを機に御家乗取りを企てており、刃向ってくるお菊の許嫁、若殿巴之介の近習である船瀬三平を、亡き者にしようとしているのでした。そのためもあってお菊を我が意に添わせ、細川家の重宝の皿を預かる三平に紛失の罪を着せようと企んでいました。

 鉄山は、将軍家へ皿を献上する前に検分するからと、企みを知らないお菊に皿の入った箱を持ってこさせます。言い寄る鉄山をかたくなに拒むお菊。家臣の忠太に皿を改めさせると、あろうことか1枚足りません。鉄山はお菊を責め、忠太に命じて井戸の釣瓶縄で吊し上げ、なおも言い寄ります。執拗な折檻で皿のありかを問うものの、お菊の態度にしびれを切らした鉄山は、お菊に御家乗取りの野望を明かして井戸へ沈めます。それでも足りず、井戸から引き上げたお菊を責めさいなみ…。

なんて悪い奴なんだろうと思われたい

 ――敵役はお好きだとうかがいました。

 演じていて面白いですよ。私は切腹したり、いじめられたり、じっと押さえつけられているような役をレパートリーとしているので、発散できるのがいいですね。お客様から、なんて悪い奴なんだろうという目で見られるのが喜びです。

 この芝居では、扇雀さんのお菊を、お客様から止めろと言われるぐらいに、いたぶります。Sの極み。あ、普段はもちろんそんな傾向はありませんよ。これは女方がいじめられる、嗜虐美です。

 ――歌舞伎ならではの悪の魅力です。

 思い切ってやればやるほど、悪の魅力は増します。『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』の八汐のときも、自分が全部を取り仕切っているぐらいの気持ちで演じました。『先代萩』は有名狂言ですが、初めてご覧になるお客様もいらっしゃる。「なんであんないたいけな子どもを殺すのか」という反応をなさる方もいました。それこそ役者冥利。それだけ役を自分のものにしているということですから。

 今回は、敵役のほうが似合っていますね、と言われるところまでいきたいです。そして、『四谷怪談』の伊右衛門もやってみたいです。

ようこそ歌舞伎へ

バックナンバー