歌舞伎いろは

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博多座「六月博多座大歌舞伎」『播州皿屋敷』知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村梅玉

連理引きのほろ苦い思い出

 ――岡本綺堂作の新歌舞伎『番町皿屋敷』の青山播磨は繰り返し演じられている当り役です。

 同じ皿屋敷でも、まったく役柄が違います。いまや歌舞伎ではあとに書かれた『番町皿屋敷』のほうがポピュラーです。博多座で『皿屋敷』を、という依頼をされたときにも、てっきり『番町』のことかと思いました。ただ、皿屋敷の話は落語にも講談にもあるし、皿屋敷に関する知識を、ある程度日本人は持っていると思うんですがどうでしょう。

 『播州』は「怪談話」でもあります。今回も扇雀さんは幽霊になって出てくるところがありますが、『番町』にはそういう場面はありません。

 ――お菊を手討ちにした鉄山が、亡霊となったお菊に引戻される場面があります。歌舞伎でいう「連理引き」ですが、後ろ向きに引かれているのを体で表現するのには、ご苦労もおありかと存じます。

 『かさね(色彩間苅豆 いろもようちょっとかりまめ)』にも、与右衛門が累に引き戻される場面があります。私が父(歌右衛門)の累で与右衛門を初演したときには参りました(昭和52年12月南座)。「ちっとも引っ張られているように見えない」と、父に散々怒られました。

 舞台に木下川があるでしょう。夢中でやっていて、戻って川に入ってしまったこともあります。首筋から引かれているように見えなくてはならないのも難しい。足の上げ方にも工夫が要ります。私の前に、父の累で夏雄さん(團十郎)が与右衛門を演じました。彼は体育会系だからすごくうまくやっていた。その後が私。「夏雄さんはちゃんとやっていたよ」と。でも、夏雄さんにしても、はっきり言って、最初はバタバタしていましたよ。

博多座 中村翫雀改め四代目中村鴈治郎襲名披露「六月博多座大歌舞伎」

平成27年6月2日(火)?26日(金)

公演情報

播州皿屋敷ばんしゅうさらやしき

浅山鉄山 中村 梅 玉
岩渕忠太 市川 猿 弥
腰元お菊 中村 扇 雀

次世代につないでいくために上演する

 ――連理引きは、具体的にはどう難しいのでしょうか。

 身体が弾みたくなっちゃうんです。それではいけない。腰が浮いてしまっては駄目。テクニックの問題で、相当勉強しないといけない所作です。一人で随分練習しました。

 しかも、今回の鉄山の場合は与右衛門と違って下駄を履き、袴もはいているから、なかなか大変だと思います。袴をはくと動きづらいですからね。でも、そういうところに歌舞伎の古風な面白さが出るものです。

 ――敵役の『先代萩』の八汐だけでなく、『壽曽我対面』の工藤祐経、『河庄』の孫右衛門など、ますます役幅を広げていらっしゃいます。

 挑戦できるのはありがたい。せっかくこういう役をいただいたのですから、なんとか自分の物にしたいです。『番町皿屋敷』の播磨ももちろん、また演じたいです。

 今回の博多座公演の狂言はわかりやすいものばかりです。そこが歌舞伎のすごいところで、『播州皿屋敷』は義太夫も入る古典ですし、夜の部には『芸道一代男』のような新作もある。歌舞伎は幅の広い、裾野の広い舞台芸術で、私はそれを誇りに思います。

ようこそ歌舞伎へ

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