歌舞伎いろは

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大阪松竹座「七月大歌舞伎」『御存鈴ヶ森』知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村錦之助

長兵衛と弥太五郎源七の違い

 ――権八の立廻りの後に、長兵衛は悠然と駕籠から登場します。

 あの瞬間の長兵衛には、どしっとした重みがあり、若衆の権八と対峙したときに対比が出ます。そこが見せどころです。

 ――芝居全体のトーンは世話ですが、長兵衛のせりふは時代ですね。

 面白いのは、南北なのに(河竹)黙阿弥のようにせりふが七五調だというところです。過去に演じられた役者さんが、工夫を重ねているうちに、そうなったんでしょう。

 ――3月の国立劇場では『髪結新三』の弥太五郎源七をなさいましたが、あちらも親分でした。

 あのときも私に配役されて驚きました。自分なりに考えて、「親分」と立てられてはいるのだけれど、ちょっとちんけな親分でいいかと思いました。「弥太五郎源七だ」と自分の名前を7回も言っているんですよ。親分ではありますが、かなり虚勢を張っているんだろうと思いました。

 長兵衛さんは、そんな弥太五郎源七と異なり、自他ともに認める大親分です。肚がちゃんとしていないと駄目です。「何でも俺に任せておきな」というふうに見えるのですから、余程の場数を踏んできたのでしょう。山みたいにどっしりとしていないといけません。吉右衛門のお兄さんは、自然になさっています。「おなかの中でそう思えばできるから」とおっしゃるんですけれどねえ…。

大阪松竹座 関西・歌舞伎を愛する会 第二十四回「七月大歌舞伎」

平成27年7月3日(金)~27日(月)

公演情報

御存鈴ヶ森ごぞんじすずがもり

幡随院長兵衛 中村 錦之助
雲助東海の勘蔵 澤村 由次郎
同 北海の熊六 橘三郎
飛脚早助 片岡 松之助
白井権八 片岡 孝太郎

歌舞伎の様式性とリアルな表現

 ――やはり、自然に見せるのは難しい、ということでしょうか。

 私も、演じることの多い二枚目でしたら、そう思えばできるんです。首だってこう(しなをつけて)柔らかく見るのが得意です。後輩に教えるときにも「なんでお前はそんな首の動かし方をするの、自然に柔らかく動くんだよ」と言えます。

 権八のせりふなら、いつも演じている系統の役柄ですから、長兵衛のように苦労せず、ちょっとキザっぽく言えるんです。「雉も鳴かずばうたれまい」とか。ですが、逆に強い立役の動きが難しい。ちらっと見て、視線だけで大きさを出す…。それが今の私に与えられた試練です。

 ――ほかに、こうしたいとお考えになられていることはありますか。

 長兵衛が権八の切った雲助たちの死骸を片づけるときに、手に血が付いたような動きをします。そう見せることで、観客の皆さんにも、鈴ヶ森が凄惨な現場なんだなと思っていただけます。でも、そこで血が付いた手に視線をやるのが、わざとらしく見えてはいけないんです。

 真似しようと考えているのですが、何の気なしに片付けているようでありながら、吉右衛門のお兄さんは殺人が起きた後の血みどろの凄惨な殺人現場であると納得させてしまう。肚の持ち方で表現されるんですよ。血を吹いたり、首が飛んだりするわけではないのに、それがわかる。歌舞伎らしい様式性がありながら、そういうところが実にリアルなんです。

ようこそ歌舞伎へ

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