歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



赤坂ACTシアター 「赤坂大歌舞伎」『お染の七役』 知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村七之助

稽古は自分を裏切らない

 ――玉三郎さんからは初演の際に、何度も教わられたそうですね。

 7回ぐらい、お稽古をしていただいたと思います。とてもよく教えていただきました。1回の稽古が2、3時間ありましたし、お電話を頂戴して「今日もおいで」と言っていただいたこともございました。稽古好きの父が、「また行くのかい」と驚いていたくらいです。

 ――どんな教えが印象に残っていらっしゃいますか。

 手の置き方から首の傾け方まで細かく教わりました。普通、教えを受けた側は、その内容を覚え、舞台上でも「昨日はこれができなかったから、今日はこれをやらなければ」と課題を持ちながら、日々勤めるものです。ですが、最後に言われたのが、「私は教えたわよ。後はあなたが、中村座を揺らしなさい」という言葉でした。

 『お染の七役』のような芝居は、演じる側が、舞台に出て、これがいけなかった、失敗した、と考えているようだと、ご覧になるお客様が面白く感じない。「あなたが一番だと思いなさい」と。腑に落ちる言葉でした。稽古は自分を裏切りません。やっていただいた稽古を信じて本番に臨みました。

 それでも毎日、「ああできなかった」ということがありますが、ひきずるのではなく、ぱっと華やかでいないと演目が成り立たないと思いますので、公演中は楽しく勤めました。

 ――会見では、「初演のときはお染が難しかった」とおっしゃっていました。

 お染が娘役の代表的な役だからです。そのスイッチをちゃんと押しておかないとほかの娘役もできません。基礎として動きが体に沁みついていなければならないと思います。

赤坂ACTシアター「赤坂大歌舞伎」

平成27年9月7日(月)~25日(金)

公演情報

於染久松色読販おそめひさまつうきなのよみうり

お染の七役おそめのななやく

浄瑠璃「心中翌の噂」

油屋娘お染 中村 七之助
丁稚久松
許嫁お光
後家貞昌
奥女中竹川
芸者小糸
土手のお六
鬼門の喜兵衛 中村 勘九郎
油屋多三郎 坂東 新 悟
船頭長吉 中村 国 生
腰元お勝/女猿廻しお作 中村 鶴 松
庵崎久作 片岡 亀 蔵
山家屋清兵衛 坂東 彌十郎

鉄漿と眉毛のあるなしが大変

 ――鶴屋南北らしい、飛躍と面白みのある作品ですね。

 七五調の歯切れのいい河竹黙阿弥物とはせりふも違いますし、どろっとしています。鬼門の喜兵衛とお六が登場する「莨屋(たばこや)」は、格好いい中に生活感があります。夫婦の日常から、死人を変装させるような非日常に、ぱんと入っていく。そういうところが歌舞伎らしい。

 お染と久松の恋愛にお家騒動が絡みますが、どこで見せるかといえば、結局は個々のキャラクターをしっかりと演じることです。心しないと、「七之助が七役やっているな」で終わってしまいます。それぞれのお役で心に残る芝居ができたら、面白さも伝わると思います。

 ――初演で工夫された点、ご苦労されたところはどこですか。

 玉三郎のおじさまとちょっと違うのは、序幕にお光を出したことです。お光がいきなり狂乱で出てくるのもわかりづらいかと思い、おじさまにもご相談をして序幕にも出るようにしました。今回は花道もつくってくださるので、花道を使った早替りもできます。

 苦労したのは鉄漿(おはぐろ)です。役によってしている人としていない人がいます。歯が濡れていると滑ってつかないんですよ。それと眉毛。ある人と剃っている人がいるので大変なんです。

ようこそ歌舞伎へ

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