歌舞伎いろは

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歌舞伎座「二月大歌舞伎」『新書太閤記』 今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 尾上菊五郎

自分とキャラクターが異なるからこそやりたい

 ――羽柴秀吉役を初めてなさいます。きっかけがおありだったのでしょうか。お祖父様の六世菊五郎さんは、昭和14、15年に連続して吉川英治原作の『新書太閤記』で羽柴秀吉(木下藤吉郎)をなさっています。

 祖父の写真集に、『太閤記』の写真が掲載されています。祖父がやったのなら、絶対にやりたいと思いました。私の産まれる前のことですから、どういうやり方をしていたのかは知らないし、知っている先輩たちもほとんどが亡くなられました。今回は新しい脚本で、柝も入れて、歌舞伎風に上演してみたいと思います。

 ――秀吉はどんな人物だと思われますか。

 魅力のある人、人たらし。本当に織田信長のことは好きだったんでしょう。成り上がり者で、皆を段々に味方につけ、一つひとつ解決して難事件も乗り越えていく。発想の豊かさ、機転が利く面を出したいです。

 サルとあだ名されますが、歌舞伎の場合は、秀吉を想定した役はけっこういい男で出てきますよね。『絵本太功記』「十段目」の真柴久吉も『金閣寺(祇園祭礼信仰記)』の此下東吉も。機転の利く動作とかが並大抵の侍ではないところから、サルといわれたという解釈です。私は頭の回転が遅いですし、秀吉とは違う。だから余計にやりたくなる。自分と同じようなキャラクターを演じるのはつまらないですからね。

通し狂言『新書太閤記』(しんしょたいこうき)

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 尾張国清洲城主、織田信長に仕える木下藤吉郎。槍の長短、いずれに利があるか、主君の前で決着をつけることになり、長槍で挑んだ藤吉郎は、稽古もせずに作戦勝ちを収めます。元は草履取りの藤吉郎に負けたとあって、憤る上田主水が闇討ちをかけるところ、藤吉郎は互いの道で忠義を果たそうと説き伏せます。
 ある日、浅野又右衛門に娘の寧子と前田利家との縁談を取り持ってほしいと持ちかけられた藤吉郎は、実は寧子とは心通わせる仲。一計を案じて婚儀の当日、信長の従弟、名古屋因幡守に連れられて浅野家に乗り込みます。因幡守に信長の御眼鏡にかなった三国一の婿と紹介されては、又右衛門も二人の仲を許すほかありません。
 清州城の城壁の普請場では棟梁たちの心を動かして3日で城壁を完成させ、偏屈者と噂の竹中半兵衛をも軍師に迎えた藤吉郎に、信長の信頼も高まります。叡山焼討ちへといきり立つ信長に、お手打ちも辞さずと諌言した明智光秀の前でも、焼討ち後に立つ主君への汚名、仏罰を一身に受けてこそ忠義と言われては、光秀も黙るしかありません。信長は藤吉郎を毛利攻めの大将に命じます。
 羽柴筑前守秀吉と名を改めての毛利攻めでしたが、城攻め半ばにして本能寺にて信長落命の書状が届きます。軍師の黒田官兵衛から天下を取るよう進言された秀吉は腹を決め、毛利と和議を結んで明智との弔い合戦へと馬を返すのでした…。

芝居風の決着をつけて面白くする

 ――人たらし、機転の利く面はどんなところに出てきますか。

 たとえば、最初の「長短槍試合」。戦場では、長い槍と普通の槍のどちらが有利かで論争になり、決着を付けるための信長の前での試合です。秀吉側は戦法なんかめちゃくちゃです。片方が、ちゃんとした流儀でかかってこようとするのを長い槍を使い、足をないで倒したり、上から叩いたりして攻めたてます。

 ですが、それを信長は勝ちと認めます。戦場では正式な槍の試合なんて通用しないという訳です。そのために秀吉は遺恨を残しますが、結局は、対立する相手も説き伏せて仲間にしてしまいます。

 ――今回、特に気をつけられるのはどんなところでしょう。

 原作の『新書太閤記』で不思議に思っていた箇所に、お芝居風に決着をつけました。「竹中閑居」では秀吉が信長の家来になるように軍師の竹中半兵衛を説得に行きます。説得には成功しますが、半兵衛は秀吉に仕えたいと言い出します。大概は竹中半兵衛を口説き落とす場面で終わりですが、それでは信長は承知しないと思うんです。

 「なんで俺が言いつけたのに、お前の家来になる」と、信長は怒るはずです。そういうところをやりたかった。そこから大逆転があったら面白いのではないかとね。信長が改心した、というだけではつまらないので工夫してみます。

ようこそ歌舞伎へ

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