歌舞伎いろは

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歌舞伎座 「二月大歌舞伎」『新書太閤記』 知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 尾上菊五郎

「清州会議」まで上演して面白さを出す

 ――「叡山焼討」では、延暦寺焼討ちを止めようとして、僧を伴って来た明智光秀と信長が対立し、後の「本能寺」の光秀の謀反へとつながります。

 光秀の言葉で信長が激昂したところに秀吉が出てきて、焼討ちは自分の策で、悪名はすべて引き受ける、と差し出がましい口をききます。殿様が悪いのではない、悪いのは自分だから、諌言なんかしないで私に協力してくださいと言う。そういうところが面白い。悪名を受けるのが真の忠臣ではないかと。

 普通だったら、叡山焼討ちなんか絶対にお止めになってくださいと言うでしょう。ところが、自分が悪役になると言って両者を説得してしまう。そういうところに秀吉の魅力があり、それが「本能寺」の伏線にもなります。

 ――今回は、「本能寺」「中国大返し」のあと、織田信長旗下の大名たちが、後継者を決める「清須会議」までの上演になります。

 信長が本能寺で討たれたことを知って、高松城攻めから取って返す「中国大返し」で終わるよりも、「清洲会議」までやったほうが面白いのでは、と思いました。

 「清須会議」では、柴田勝家と信長の三男の織田信孝で話が決まりかけたところへ、秀吉が信長の長男、信忠の遺児の三法師と一緒にぱっと出てきて、「頭が高い」と、今までさんざんいじめられてきた柴田を一喝するんですよ。秀吉はそれまでに味方をいっぱいつくっていたんでしょうね。一人では絶対に無理な話です。丹羽長秀とか中川清秀、蒲生氏郷、高山右近…。そういう仲間をつくってあったわけです。

 「中国大返し」で毛利方と和睦を結び、いち早く戻り、謀反を起こした光秀を討ち果たしたことで、ほかの家臣たちが「こいつはすごい」と思ったんじゃないでしょうか。信孝では応じなかったのが、秀吉が号令をかけたらみんな集まってきたんです。

年とともにやりたくなってきた

 ――秀吉役の菊五郎さんは、ほとんどの場面に登場されますね。

 さすがに本能寺には出ませんが、それ以外は出ています。イメージとしては20歳代から40歳代ぐらいのつもりで勤めます。若いころはテンポよく、とんとん運んで、「竹中閑居」くらいから少し落ち着いた感じになります。

 皆さんがご存じの秀吉の逸話のいいところ取りなので、一場面、一場面を面白くつくっていきたいです。せりふもわかりやすく、明るい楽しい感じにしたいですね。そう、いわば出世物語です。軍師の黒田官兵衛に、「天下をとるのはあんた」だと言われ、そこからむくむくとやる気になる。そのあたりは原作どおりです。

 ――映画やテレビで、いろいろな方が秀吉を演じてこられました。

 私がNHKの大河ドラマ「源義経」(昭和41年)に主演した前年の「太閤記」で、秀吉を演じられたのが緒形拳さんでした。いろんな秀吉がいて、それぞれ納得させられますが、まさか自分がやるとは思わなかった。私のキャラクターとはかけ離れていますから、演じる機会はないだろうなと思っていたんですが、年とともにやりたくなりました。

歌舞伎座「二月大歌舞伎」

平成28年2月2日(火)
~26日(金)

通し狂言『新書太閤記』しんしょたいこうき

木下藤吉郎/羽柴秀吉 尾上 菊五郎
織田信長 中村 梅 玉
寧子 中村 時 蔵
柴田勝家 中村 又五郎
織田信孝 中村 錦之助
上島主水 尾上 松 緑
濃姫 尾上 菊之助
織田信忠 中村 松 江
小早川隆景 坂東 亀三郎
福島市松 坂東 亀 寿
林佐渡守/黒田官兵衛 中村 亀 鶴
おゆう 中村 梅 枝
加藤虎之助 中村 歌 昇
森蘭丸 中村 萬太郎
小熊 大谷 廣太郎
森力丸 中村 種之助
下男権三 市村 橘太郎
滝川一益 片岡 松之助
延暦寺使僧 橘三郎
佐久間信盛 澤村 宗之助
武井夕庵 澤村 由次郎
山渕右近/池田恒興 片岡 亀 蔵
蜂須賀彦右衛門 片岡 市 蔵
棟梁六兵衛/吉川元春 河原崎 権十郎
又右衛門妻こひ 市村 萬次郎
浅野又右衛門/安国寺恵瓊 市川 團 蔵
前田利家 中村 歌 六
母なか/丹羽長秀 中村 東 蔵
名古屋因幡守 坂東 彦三郎
竹中半兵衛 市川 左團次
明智光秀 中村 吉右衛門

ようこそ歌舞伎へ

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