歌舞伎いろは

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歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」『十六夜清心』『三人吉三巴白浪』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 尾上菊之助

弁天小僧とお嬢吉三の違い

 ――夜の部の『三人吉三巴白浪』「大川端庚申塚の場」では、お嬢吉三を演じられます。初演は平成8(1996)年10月、名古屋の御園座。菊五郎さんのお坊吉三、十七世市村羽左衛門さんの和尚吉三でした。

 大先輩との共演は今考えますと、本当にありがたいことだったと思います。初演では、とにかく父のとおり、せりふ回しを真似して勤めました。今となっては、1カ月興行の25日間、必死に舞台に立ち、あっという間に終わってしまったという印象です。

 ――平成9(1997)年5月には歌舞伎座で今回と同じ、尾上松緑さんの和尚吉三、市川海老蔵さんのお坊吉三で勤められています。

 松緑さんと海老蔵さんとの顔合わせで演じるのは久しぶりです(平成11年2月大阪松竹座以来)。お二人とご一緒できるのが楽しみです。この場面の後の展開が想像でき、「次はこの芝居を通しでも見たい」と思っていただけるように勤めたいです。

『三人吉三巴白浪』大川端庚申塚の場 (さんにんきちさともえのしらなみ)(おおかわばたこうしんづかのば)

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(C)松竹株式会社

 節分の夜、両国橋に近い川岸を急ぐ、一人の夜鷹、おとせに、振袖姿の女が道を尋ねてきました。おとせが帰り道だからと同道することにした途端、女は態度を一変、おとせの懐に手を入れ、自分は盗人だと正体を明かし、百両の金を奪い取ってしまいます。様子を見ていた金貸しの太郎右衛門からも、刀を奪いました。

 駕籠に乗ってその一部始終を見ていた男がいました。取った百両を貸せ貸さないと争う二人は、女と見えたのがお嬢吉三、男はお坊吉三。互いに名を知る盗人どうし、百両をめぐって刀を振り回すところ、止めに入ったのが和尚吉三でした。盗人として名高い和尚の言葉を立てて刀を収めた二人は、同じ吉三の名を持つのも因縁、兄弟分になりたいと願い出ます。和尚も快諾して兄弟の誓いを立てた三人の吉三、金のけりもつけて悠々と立ち去りました。

歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」

平成28年5月2日(月)~26日(木)

『三人吉三巴白浪』大川端庚申塚の場

お嬢吉三 尾上  菊之助
お坊吉三 市川  海老蔵
夜鷹おとせ 尾上  右 近
和尚吉三 尾上  松 緑

 ――どこに気を付けて演じられますか。

 お嬢吉三は、女装して美人局(つつもたせ)でお金を稼いでいるような盗賊です。同じ女に化けた盗賊でも『白浪五人男』の弁天小僧菊之助と比べ、お嬢吉三には女方の色気がより必要だと思います。

 弁天小僧と南郷力丸は男兄弟という感じですが、お嬢吉三とお坊吉三は、ともに男性には違いないですが、端からは、もしかしたら恋人同士かもしれない、と想像できるような場面が、後半の吉祥院で出てまいります。

より様式的に、格好よく

 ――黙阿弥らしい七五調の小気味いいせりふがありますね。

 七五調というのは、歌わないといけないですし、下座(音楽)に乗ったリズムを大事にしなければいけないのですが、中身が伴わないといけません。かといって内容が詰まり過ぎるとリアルさが増して、七五調になりません。意味とリズムとのバランスが難しい。そこに七五調の面白さがあると思います。

 ――お嬢吉三の「月も朧に」は名せりふとして知られます。

 確かにそうなのですが、いまや「これ知っている、名せりふ」とういのが通用しない時代になってきているのではないでしょうか。弁天小僧の「知らざあ言ってきかせやしょう」もお嬢吉三の「月も朧に」も、より様式的に格好よくないといけない。お客様がご存じないことを前提に、演じなければいけないと考えております。

 また、形が決まって絵面にならないと、長せりふも台無しです。かどかどの決まりが、絵になるようにしないといけないと思います。

ようこそ歌舞伎へ

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