歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



「松竹大歌舞伎」中央コース『鳴神』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村梅枝

女方に必要なことが集約されている絶間姫

 ――雲の絶間姫は、鳴神上人を籠絡(ろうらく)して竜神を解き放ち、旱魃(かんばつ)から世を救うという使命を帯び、上人のこもる「北山岩屋」を訪れます。

 女方で屈指の大役です。品と格を求められ、色気も大事で知的であり、懐剣を用いて注連縄(しめなわ)を切る場面もあります。つまりは女方がいろいろな役で必要とされることが集約されている役柄で、どれ一つが欠けてもいけないし、どれ一つが勝っていてもいけない。バランスが取れていないと成り立たない役です。父(時蔵)に教わります。

 ――絶間姫は、亡夫の形見の小袖を滝で洗い清めに来た、と仕方噺で語ります。鳴神上人、白雲坊、黒雲坊と同時に観客も、姫の一挙手一投足に引き寄せられます。

 それが全部つくり事なわけです。語り過ぎないようにしなければいけませんが、姫自身が「あんなことがあった、こんなこともあったな」と面白くなるように話さないと、お客様に伝わりませんし、楽しんでもいただけないと思います。

 姫扇子を使い、川を越える場面では裾を手繰ったりもします。お客様を飽きさせないように、状況が浮かぶように勤めたいです。

歌舞伎十八番の内『鳴神』(なるかみ)

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(C)松竹株式会社

 時の朝廷に恨みを抱く鳴神上人は、竜神を滝壺に封じ込め、険しい岩山の庵に引きこもっていました。そのせいで国中が日照り続きのある日、夫の形見を洗おうにも水がないのでここまで参りました、と一人の美女がやって来ます。乞われるまま、夫とのなれそめなど身振りを交えて話す面白さに、鳴神上人はつい引き込まれ、庵から転げ出てしまいました。さては通力を破るためにやって来たのだろうと女に詰め寄りますが、疑いを晴らそうと必死な様子に鳴神上人も心動かされ、とうとう夫婦の盃を交わすことに。

 鳴神上人が生まれて初めての酒に酔い、うっかり雨を降らす方法を教えて眠りにつくと、女は鳴神上人に詫びつつ、聞いたとおり注連縄を切って竜神を解き放ちました。大雨の中、逃げた女が勅諚を受けた宮廷一の美女、雲の絶間姫と聞いた鳴神上人は怒り狂い、雷の形相となって追いかけていきました。

理屈で表現するところとそうでないところ

 ――文屋豊秀への思いを遂げることが絶間姫の目的です。

 そこがお姫様ですね。情熱的です。絶間姫はなんとか鳴神上人に近づき、目的を遂げようと考えています。あまり計画的になると嫌らしくなり、お姫様らしくなくなってしまいます。鳴神上人に懐に手を入れられるところも、露骨過ぎてはいけませんが、お客様に何をやっているのかがわからないと意味がない。兼ね合いが難しいですが、あまり理屈っぽく考えても面白くなくなります。

 歌舞伎には、理屈で表現するところと、そうでないところがあります。その線引きが、まだ私には難しいのですが、役づくりをするときはある程度、理屈を通してみます。先輩方や父に、「そんなに理屈っぽくやらないほうがいい」と注意されることもありますが、何も考えずにその役に見えるように演じることができるには、まだまだ力が足りません。今回も、いつものように役づくりをして父に見てもらおうと思います。

 ――絶間姫は鳴神上人との盃事で、上人に酒を飲ませ、眠らせることに成功します。客席も沸く、面白い場面です。

 お酒のすすめ方も、高圧的に言ったり、すねてみたりします。全部同じ調子ですと単調になります。鳴神上人を演じられる方によって、絶間姫の芝居も変わります。父もお相手が変わるとその都度、演技を変えております。鳴神上人を演じられる松緑のお兄さんは百戦錬磨の方ですから、いろいろおっしゃっていただけると思います。

ようこそ歌舞伎へ

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