歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「十二月大歌舞伎」『あらしのよるに』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村獅童

古典にこだわった新作を目標に

 ――昨年9月に京都南座で新作として上演された作品が、早くも歌舞伎座でこの12月に上演されます。

 京都は古典歌舞伎を好まれるお客様が多いように思っていましたので、不安もありました。そんななか、中高生の貸切公演が続けて4回ありました。学生さんの反応ははっきりしています。ところが、最後まで真剣に観てくださり、終演後も拍手が鳴りやまず、カーテンコールまでいたしました。それが自信につながりました。

 ――特に好評だった場面はありますか。

 幕開きの群舞から盛り上がりました。踊りでは手拍子が起きましたし、嵐の中で舞台が暗くなると、「うおお」と歓声が上がりました。だんだんに見た目の面白さから、ストーリーに入ってきてくださったようで、泣いている方もいらっしゃいました。今回は、ちょっとせりふが追加になり、僕のがぶと松也さんのめいの芝居も増えます。

 ――初演で、ご留意されたのはどんな点ですか。

 僕は、いろいろな新作があっていいと思っています。現代音楽が入る場合もあり、自身もそういう作品に出演してきました。ですが、『あらしのよるに』では、古典にこだわった新作を目標にしました。原作の絵本が持つアナログで古風な世界観が、歌舞伎の持つ表現法にすぽんとはまるのではないかと思ったのが、歌舞伎化を思い立ったきっかけでもあります。

 ですから、古典のなかでこの物語を活かしたい、古典歌舞伎でこれをやるとしたら、どんな風にやるだろうか、と念頭に置くことに留意しました。飛六方、立廻り、だんまり…、全部入っています。それを作品とどう結びつけて行くかが一番の苦労で、結びついてからは早かったです。与えられたパートごとに、義太夫の方たち、衣裳、床山さんといろいろなアイディアを出し合いながらつくっていきました。

『あらしのよるに』のお約束

 ――がぶのせりふの語尾は原作と同じに「でやんす」になりますね。

 基本は原作どおりですが、義太夫が入ったり、書き物風のせりふになったりするところもあります。そういうところは、普段の歌舞伎の演技法になります。この音が鳴ったら、この動き、という約束事があり、それは歌舞伎俳優の身体に沁みついています。歌舞伎の底力、演技法、表現法に随分助けられました。

 ――狼と山羊、動物としての動きについてはいかがですか。

 『義経千本桜』「四の切」の狐忠信でも、狐らしい歩き方を見せますでしょ。全部がそうならなくてもいいけれど、歩いているときでも規則をつくったほうがいいかな、ということは話しました。たとえば、山羊の走りは、最後に動物っぽくなる、そこは決めておこうと思いました。

『あらしのよるに』

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(C)松竹株式会社

 ある岩山で、狼に追い詰められた1匹の山羊が、狼の耳を食いちぎりました。片耳となった狼のぎろは狼のお頭を殺し、それを山羊たちの仕業だと言いふらしました。

 年月は過ぎ、ある激しい嵐の夜のこと。小屋に避難していた狼のがぶと山羊のめいは、相手の正体がわからないまま意気投合、合言葉を決めて再会を約束します。翌日、互いの姿を見てびっくり。しかし、がぶは必死に食欲を抑えながらも、めいと楽しい時を過ごし、友達として名のり合います。

 一方、狼の長の座を奪い取っていた片耳のぎろは、耳を食いちぎられた恨みを晴らす術はないかとおばばに尋ね、同時に生まれためい、たぷ、みい姫がその鍵を握ると聞いて、さっそくその三匹の山羊を探させます。そして満月の夜、岩山の頂でついに狼たちに見つかったがぶとめい、がぶが盾になり、めいと助けに来た山羊たちを逃がします。

 がぶが心配でならないめいは、がぶが閉じ込められた石牢まで行き、友達の絆をあらためて確信します。そこへぎろが現れ、絶体絶命と思われたそのとき…。

ようこそ歌舞伎へ

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