歌舞伎いろは

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歌舞伎座「十二月大歌舞伎」『あらしのよるに』
芝翫さんのこと、お教えします

ようこそ歌舞伎へ 中村獅童

初役も新派も、そして「納涼歌舞伎」では…

 ――2016年の締めくくりが『あらしのよるに』になりますが、振り返って今年はどんな年でしたか。

 充実していました。役でいえば、2月は博多座の「坂東玉三郎特別舞踊公演」で『船辨慶』の弁慶、3月は劇団新派公演に初参加し、6月のコクーン歌舞伎では『四谷怪談』の伊右衛門、秋の全国公演では『勧進帳』の富樫を初役で勤めました。8月の歌舞伎座での「八月納涼歌舞伎」も一部、二部、三部で全部違う役柄をさせていただいきました。

 ――今年の「納涼歌舞伎」では、いろいろ思うところもおありだったのではないでしょうか。

 8月の第三部で芝翫兄さんの橋之助最後の舞台、『土蜘』で、初役の平井保昌をさせていただいたのがうれしかったですね。お兄さんには、子どものときからかわいがってもらい、思い出もいっぱいあります。神谷町のお宅にもたびたびお邪魔させていただいており、神宮球場に野球を見に連れていってくださったこともあります。

 大人になってからは、コクーン歌舞伎、平成中村座、納涼歌舞伎とご一緒させていただきました。芝翫を襲名されて、橋之助ではなくなる…。寂しさ、喜び、いろんな思いが交錯し、千穐楽には思わず泣いてしまいました。

だから古典を勉強しなければいけない

 ――4月には映像と歌舞伎を融合させた新作、『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』で佐藤忠信を演じられました。

 初音ミクさん(ボーカロイド、バーチャル・シンガー)との共演でした。『あらしのよるに』がアナログだとしたら、初音さんはデジタル。デジタルと歌舞伎との融合です。5,000人ぐらい入る大きな会場での公演でしたが、デジタルに負けない衣裳の色合い、隈取の魅力。たくさんのお客さんを前にしても、歌舞伎がひるまないことを確認しました。

 ――『あらしのよるに』と『今昔饗宴千本桜』、対極にあるような二つの新作に携わったことが大きかったようですね。

 あらためて、歌舞伎はよくできていると思いました。だからこそ、古典を勉強しなければいけないんです。古典を勉強しないと新作はできません。新作を手がけたせいか、富樫を勤めた『勧進帳』も、今までとは違って思えました。曲といい演出といい本当によくできています。名曲ですし、わくわくしたり、どきどきしたり、高揚したりします。『勧進帳』も最初は、昔の方たちが試行錯誤し、工夫に工夫を重ねてつくり上げられた新作だったわけですよね。

 新作に出演すると古典の魅力が見えてきます。そういった意味でも、歌舞伎の魅力を再認識できた一年でした。獅童ならではの新たな仕事を来年、再来年とやっていけたらと思います。

中村獅童

中村獅童さんをもっと知りたい!

中村 獅童(なかむら しどう)

生まれ 昭和47年9月14日、東京生まれ。
家族 初代中村獅童の長男。祖父は三代目中村時蔵。五代目中村歌六、五代目中村時蔵、三代目中村又五郎、二代目中村錦之助はいとこにあたる。
初舞台 昭和56年6月歌舞伎座『妹背山婦女庭訓』「御殿」豆腐買おむら娘おひろほかで、二代目中村獅童を名のり初舞台。
この一年の舞台

平成28年

1月 「初春花形歌舞伎」(新橋演舞場)
『車引』松王丸/『弁天娘女男白浪』南郷力丸
2月 「坂東玉三郎特別舞踊公演」(博多座)
『船辨慶』武蔵坊弁慶/『正札附根元草摺』曽我五郎時致
3月 「国立劇場新派公演」(国立劇場)
『寺田屋お登勢』坂本龍馬
4月 「超歌舞伎 今昔饗宴千本桜」(幕張メッセ)
『今昔饗宴千本桜』佐藤四郎兵衛忠信・白狐
6月 「渋谷・コクーン歌舞伎 第十五弾 四谷怪談」(シアターコクーン)
『四谷怪談』民谷伊右衛門
7月 「信州・まつもと大歌舞伎 四谷怪談」(まつもと市民芸術館)
『四谷怪談』民谷伊右衛門
8月 「八月納涼歌舞伎」(歌舞伎座)
『権三と助十』権三/『東海道中膝栗毛』劇場支配人出飛人・奉行大岡伊勢守忠相/『土蜘』平井左衛門尉保昌
10月 「秋の特別公演 古典への誘い」(全国公演)
『勧進帳』富樫左衛門
11月 「博多座十一月花形歌舞伎」(博多座)
『石川五右衛門』ワンハン

ようこそ歌舞伎へ

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