歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「十二月大歌舞伎」『あらしのよるに』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村獅童

子どもも大人も楽しめるエンターテインメントに

 ――原作のきむらゆういちさんも、南座公演を何度もご覧になったそうですね。

 ありがたかったです。きむら先生からは、「原作にあるこのせりふだけは入れてもらいたい」という申し出が何カ所かありました。今回、そういったところが変わると思います。吹雪になるところも、よりわかりやすくします。

 ――狼と山羊が入り乱れての激しい立廻りもみどころですね。

 「だんまり」などは、うちの獅一がタテを担当し、アクションぽいところは僕が歌舞伎以外のお芝居をするときにお世話になっている渥美博さんにお願いしました。立師と殺陣師、歌舞伎のタテとアクションとの融合にもなっています。

 ――獅童さんは、2002(平成14)年に「NHK教育てれび絵本 あらしのよるに」で、ナレーションと全キャラクターの声を担当され、3年後にはアニメ映画でもガブの声を勤められています。

 南座にはお子様もたくさんお見えでしたが、映画をご覧になっている方が多かったように感じました。映画やテレビと同じ声のがぶが目の前にいるので、「ああ、がぶだ、がぶだ」と、ちょっとせりふを言っただけで、敏感に反応して喜んでくださいました。児童演劇にする気はなく、古典歌舞伎をつくるつもりで、結果として、お子様から大人まで楽しめる一つのエンターテインメントになれば、というような思いでした。

歌舞伎座「十二月大歌舞伎」

平成28年12月2日(金)~26日(月)

『あらしのよるに』

がぶ 中村  獅 童
めい 尾上  松 也
みい姫 中村  梅 枝
たぷ 中村  萬太郎
はく 市村  竹 松
山羊のおじじ 市村  橘太郎
ばりい 市川  猿 弥
がい 河原崎 権十郎
狼のおばば 市村  萬次郎
ぎろ 市川  中 車

母が残したがぶとめいの絵の帯

 ――テレビ絵本の頃から歌舞伎化を考えられていらしたそうですね。

 いつか新作歌舞伎としてやれたら、と思っていました。南座の花形歌舞伎で何をやるかとなったとき、この機会に『あらしのよるに』をと思いました。母がテレビ絵本の頃に、松竹に「いつか獅童にこれをやらせて」、と歌舞伎化の企画書を渡していたのだそうです。南座のお稽古のときに松竹の方から、「10数年前に、お母様が企画書を会社に出していらしたんですよ」と教えられました。

 母は死ぬまでそのことを言いませんでした。母と、「これはファンタジーで、大人から子どもまで楽しめる楽しい歌舞伎にできるね」、と話したことはありました。ですが、企画書までつくっていたとは思いませんでした。

 ――3年前にお母様が他界され、舞台をご覧になれなかったのは残念です。

 京都は母の故郷です。そこにある南座で座頭を勤めるのは初めてでした。絵本の絵を担当したあべ弘士先生に、母ががぶとめいの絵を描いていただいた女物の帯があります。何回か母も締めていましたが、『あらしのよるに』が歌舞伎化した暁には、その帯を締めて劇場に行くつもりでいたのではないでしょうか。妻がそれを母の代わりに締めて南座に来ておりました。

 京都の方たちのご支持があったからこそ実現した、今回の上演だと思います。京都のお客様が、あちこちで、芝居がよかったと言ってくださった。その言葉に甘えるだけではなく、より一層いいものをつくっていきたいと思います。

ようこそ歌舞伎へ

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