歌舞伎いろは

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歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」『刺青奇偶』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村七之助

半太郎の足にしがみつくお仲

 ――今回の舞台は玉三郎さんの演出です。玉三郎さんはお祖父様の十七世(中村)勘三郎さん、お父様の十八世勘三郎さんの半太郎でお仲を演じていらっしゃいます。

 父の半太郎と玉三郎のおじ様のお仲、仁左衛門のおじ様の政五郎の舞台を拝見したときに(平成11年2月、同20年4月ともに歌舞伎座)、僕は涙が止まらなかったし、素敵な作品だと思いました。お仲を玉三郎のおじ様に教えていただきたいとお願いし、演出までしていただけることになりました。うれしいです。

 父と玉三郎のおじ様は半太郎とお仲を、技術ではなく、心から見せていました。今回、一所懸命に自分なりのお仲をつくりますが、おじ様がアドバイスをしてくださると思いますので、それがとても楽しみです。

 ――玉三郎さんのお仲のどんなところに感銘を受けられましたか。

 刺青を入れるところはもちろんですが、僕は序幕で、助けてくれた半太郎に下心があると思い込んでの、バサバサしたお仲も好きです。すごいのは半太郎に怒られ、この人は今までの男とは違うんだと気づいて半太郎の足にしがみつき、「本心なのか」と問いかけ、こんな人に「初めて会った」と言うところです。

 お客様は笑います。確かにおかしいし、面白い場面ですが、あそこで、玉三郎のおじ様のお仲は泣けるんですよ。お仲は、もう何をやっても無駄だと、今まで自分の感情の上にふたをしていた人です。だから半太郎にも、どうせ身体目当てだろうと言う。ところが、半太郎の真心に触れると昔のお仲が出てくる…。

 せりふ一つで、どういう生い立ちだったかまでが表現され、少女時代の、人を信じていたころのお仲が出ます。すごい役者だなあと思います。

歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」

平成29年8月9日(水)~27日(日)

『刺青奇偶』

半太郎 市川  中 車
お仲 中村  七之助
赤っぱの猪太郎 中村  亀 鶴
従弟太郎吉 中村  萬太郎
半太郎母おさく 中村  梅 花
半太郎父喜兵衛 松本  錦 吾
荒木田の熊介 市川  猿 弥
鮫の政五郎 市川  染五郎

刺青を入れるお仲の気持ちは

 ――サイコロの刺青を彫るところはどう演じられますか。

 これは僕の解釈ですけれどね。妻として何かを残したいという気持ちもあったでしょうが、自分の愛を半太郎はわかっているし、半太郎も自分を愛してくれている。そして、医者の表情を見たときから自分の死期を悟っています。自分がいなくなったら半太郎は生きていけないだろう、博打で身を滅ぼすのではと案じてもいます。そこで考えたのが刺青だったのではないでしょうか。

 私は側にいるから絶対に大丈夫ですよという印を、サイコロという形で刻んだんだと思います。玉三郎のおじ様のお仲は、彫っているときに傷から血が出ているように見えるんです。最後の二人の幸せな作業というか、最後に共有できるものなのではと思いました。素敵な場面ですので、そこにつなげるようにお仲を演じたいです。

 ――『刺青奇偶』は、周囲の人物もよく描かれていますね。

 政五郎なんてとってもいいじゃないですか。酸いも甘いも心得た親分です。仁左衛門のおじ様が格好よかったです。それに、政五郎の子分も全員違って描かれているんですよ。半太郎と政五郎のやりとりを、「何言っているんだ、こいつ」と笑っている人間も、だんだん半太郎の気持ちが身に染みてくる人間もいます。本当によく書かれています。

ようこそ歌舞伎へ

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