歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」『盟三五大切』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村七之助

思い出の深い『盟三五大切』

 ――第三部で『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』の小万を初役でなさいます。コクーン歌舞伎でも上演された思い出深い演目と思います。

 コクーン歌舞伎でも一番好きな作品です。父(十八世勘三郎)と芝翫の叔父がダブルキャストで源五兵衛を勤めたとき(平成10年9月)のイメージがとても強いです。そのときに福助の叔父が演じていた小万をできるのは、憧れでもあったのでとてもうれしいです。

 ――序幕の「佃沖新地鼻」で芸者姿で船に乗る姿は、浮世絵のような美しさです。

 小万は三五郎の女房だったのが、お金のことで芸者になり、純の芸者ではありませんが、やはり色気たっぷりに演じたいと思いますし、父の三五郎、(四世)雀右衛門のおじ様の小万で上演したとき(平成9年10月歌舞伎座)、父とおじ様では、すごい年の差でした。それなのに、「横抱きにしたら、おじ様がちゃんと目をつぶるんだよ」と父が言っていました。そういう風に演じたいなと思います。

 ――「五人切」「鬼横町」「愛染院門前」と見せ場が続きます。

 「鬼横町」で小万が殺される場面は、コクーン歌舞伎は血が飛び散り、腕を切り、壮絶でした。タテ師さんとのご相談ですが、残酷にやるほうがお客様が喜ばれるのではと思います。「愛染院門前」で、小万の首を前に源五兵衛は食事をします。あの場面を、最初に見たときは、僕も若かったので衝撃的でした。ああいうのが、嫌いな方もいらっしゃると思いますが、僕は好きなので。

 源五兵衛も狂っているのか狂っていないのか、狭間の男だと思うので、どう幸四郎さんが演じられるのか楽しみです。

『盟三五大切』(かみかけてさんごたいせつ)

 深川の芸者小万は夫の三五郎のために金を工面しようと、男たちから金をしぼりとっていましたが、家財を売り払うほど入れあげていた源五兵衛もその一人。伯父の富森助右衛門が仇討の一党に加えてやりたいと用立ててくれた100両も、腕の「五大力」の彫り物で誓いを立てる小万に渡してしまいました。ところが、小万の男は自分だと三五郎が明かし、ようやく騙されたことに気付いた源五兵衛。仲間の家に戻った三五郎がその彫り物を「三五大切」に直したところへ、抜身を下げた源五兵衛が現れます。次々とめった斬りにするなか、三五郎と小万はようよう逃げ出しました。
 三五郎夫婦が引っ越してきたのは、お岩の幽霊が出ると噂の家。がめつい大家が実は小万の兄とわかり、三人はめでたく手を締めます。そして、日が暮れてやって来た托鉢の僧は三五郎の父でした。三五郎がさっそく源五兵衛から巻き上げた100両を渡すと、主の不破数右衛門に息子の働きを申し上げようと喜び勇んで出て行きました。入れ違いに今度は、源五兵衛が近づきの印にと酒を持って現れます。追いかけてきた役人が捕らえようとするところ、身代わりになったのが源五兵衛の家来、八右衛門。義士の列に加わり殿の無念をと訴える八右衛門に、本望を遂げると返す源五兵衛でしたが…。

『忠臣蔵』と『四谷怪談』とのつながり

 ――勘三郎さんと芝翫さん、それぞれの源五兵衛はいかがでしたでしょう。

 まったく違う源五兵衛でした。芝翫の叔父はいつもみたいに、かっと小万を見て食べて、そこには怒りがありました。父は、小万と一緒に食事をしているように見えました。無というか。どうやってもいいんだと思いました。そういう可能性がすごく面白かったですね。

 ――源五兵衛は実は不破数右衛門という塩冶浪人で、最後には討入りに加わることになります。『仮名手本忠臣蔵』の裏の話ともなっています。

 そこがうまいところで、三五郎は源五兵衛を義士にするために働いていた忠義の人になります。それが歌舞伎の面白さ、鶴屋南北のすごさだと思います。

 ――また、同じ南北作品の『東海道四谷怪談』の後日談にもなっています。

 「鬼横町」の小万、三五郎が入った長屋は伊右衛門とお岩が住んでいたことになっています。そこもすごくうまいなと思います。

ようこそ歌舞伎へ

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